・共鳴する未来 データ革命で生み出すこれからの未来
著者:宮田裕章
出版:河出新書
「人新世の『資本論』」が、資本主義に対抗する新しい<コミュニズム>を打ち出してるのに対して、個人的には「(少なくとも日本では)まだ資本主義の枠組みでやるべきことがあるんじゃないかな?」と感じています。
その期待は「技術革新」、そのベースにあるのが「データ活用」なんですが、その「データ活用」の現状を確認する意味で本書を読ませてもらいました。
作者の宮田さん。
銀髪で個性的なファッションをされる方で、
「近寄りたくないタイプやな〜」
と持ってたんですがw、自粛期間中にNewsPickの動画配信なんか見てると、
「かなりまともな人やん」(落合さんよりはリアリストw)
と見直したんですよねw。
(LINEを活用したコロナ対策への関与など、実務的な動きをしてるってのも評価ポイント)
本書は「貨幣」「国家」といった強制的・一元的評価体系に対して、「データ」を活用することで、さまざまな評価体系が共存・競合する社会が成立しうるのではないか(多層型民主主義)との観点から、今後の社会のあり方について考察する内容になっています。
イメージ的には中国の「芝麻信用」のような信用体系が複数成立して、それぞれが大切にする「価値観」で評価され、それをベースとした経済システムが構築されるイメージでしょうか?
一番わかりやすくだと、それが貨幣評価と交換可能になるのが良いとも思うんですが、そうなると「多層的評価体系」にはならなくなるのかな?
ちょっとここら辺はわからない…。(物々交換的な仕組みが成立するといいのかもしれませんが、ちょっと難しい気もします)
外科医療におけるNCD(National Clinical Datebase)や、LINEを活用したコロナ対策など、作者自身が関与し、実装・運営もした実例なんかを上げながら「データ」が新しい評価体系を構築する可能性を論じるあたりは、実務も絡んでいるだけにナカナカ興味深いです。
GDPRなんかにも言及しながら、個人情報のあり方なんかについての考察もされています。
「多層型民主主義」って考え方も面白いかな。
民主主義と資本主義の関係ってのは複雑なトコロがあるけど、民主主義サイドが多様な価値観を評価するようになると、自ずと資本主義も変容することが期待できますからね。(コミュニズムを持ち出さなくても)
ここら辺、その多様性を経済システムにどう組み込んでいくのかってのが課題ではあるでしょうが。
個人的にはもうちょっと実務的なところに踏み込んだ提言が読みたかったなってのがあります。
例えばちきりんさんが指摘しているこんなポイント。
<縦割りを排し、統一IDなしには暮らせない社会へ>
https://chikirin.hatenablog.com/entry/2020/09/30/125014
作者自身も統合されたIDについては動いているようですが(PeOPLe)、「マイナンバー」や「住基ネット」なんかがある中で、さらにそれとは別に…ってのは実務的じゃないし、スピード感もないんじゃないかなぁ。
その思想をベースに、実務的にマイナンバーあたりとどういう基盤を構築していくかってのを論じる段階にすでに入ってると思います。
ここら辺に突っ込んで、その先をどうしていくか…なんてあたりが聞きたかったんですよ。僕としては。
…ってまあ、それは勝手な僕の期待。
すでに行政とのコラボの経験もある作者ですから、そんなことは重々ご承知でしょう。
本書で提言している「多層型民主主義」の方向性は、僕は賛成です。
その実現に向けて「データドリブンな社会」を如何に作っていくか。
その中での作者の活躍を期待しています。
「行政のデジタル化に5年」
とかいうスピード感ではなく…ですね。