鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

事前に思ってた以上に読み(聴き)やすくて、楽しむことができました:読書録「ある男」

・ある男

著者:平野啓一郎 ナレーター:小島史裕

出版:audible版

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平野啓一郎さんの小説を読む(聴く)のは初めてでした。

何作か評判を聞いて「読もうかなぁ」とは思ったこともあるんですが、一方で「文章が読みづらい」「難しい漢字・単語を使いたがる」ってな悪評もあって、なんとなく…。(「マチネの終わり」は序盤で挫折してます。別に文章のせいじゃないけど)

本作については「映画化」されたと言うのと、audibleで見かけたと言うこともあって、読んで(聴いて)みる気になりました。

 


文体・単語については、audibleで聴く分には「気にならない」レベルでした。

文章はむしろ読みやすいんじゃないですかね、これは。

単語の方は確かに「?」と思うところもありましたが、オーディオブックだと引っかからずそのまま先に行っちゃうので、それでなんとなく話は繋がるからいいか…って感じw。

まあ、「読み方」として「それでいいのか」はなんとも言えませんがねぇ。

僕個人としては事前に構えてた分、チョット肩透かしでした。

 


話は面白かったですよ。

死んだ男が実は他の人と戸籍を交換してて…

って話なんですが、確かにミステリー的な展開ではあるものの、トリック的にはそこまで新規な感じはしないです。

まあ「他の人に」っていうネタだと、この分野には宮部みゆきさんの「火車」って傑作もありますし。

ただ本書はミステリーではなくて、「他人の人生を生きる」と言うことを巡って、「自分とは何か」ってことを問いかけることがメインのテーマになっています。

ここら辺、平野さんが主張する「分人主義」の影響があるのかもしれませんが、そっちの方は僕はよく知らないんで、どこまで理念的に繋がりがあるのかは「?」。

ただ「本当の自分という<核>のようなものがあるんじゃなくて、他人との関係の中でいろいろなキャラクターが成立しうるのが人間の在り方」て考えると、「そういうところあるよね」と考えたりします。

 


主人公の弁護士(城戸)が正体を探す「ある男」、そしてその周りに存在する同様の境遇の人々。

主人公は調査の中でそういう人々や案件を知っていく中で、自分が違う人生を生きることを想像し、生き方を選択することの可能性や意味を考えます。

その根本には「在日」でありながら「日本人」としてのアイデンティティしかないと考えていた自分が、東日本大震災やその後のヘイトスピーチの盛り上がりの中で、<無理やり>在日としてのアイデンティティを突きつけられたことがあります。

日々の中で妻との不穏な日々を過ごしつつ、他の女性との違う人生の可能性を選択肢として想像したりして…物語の結末時点で彼が送る「平凡な日々」「平和な日々」もまた、ある<選択>の結果であり、それを捨て去る可能性もまた…。

序章においてバーで他人になりすます「遊び」の姿を見せる城戸の姿には、その不穏さが垣間見えるようにも感じられます。

 


「本当の自分なんかいない」

という作者の考えからすると、本作で「探偵役」を割り振られた<城戸>が、「ひとりでウォッカを飲みながら、ジャズを聴く」なんてシチュエーションに、「ハードボイルド小説」のキャラを充てたような薄っぺらさを感じるは、あながち間違いじゃないかも。

妻と距離感を感じるキッカケとなった些細な諍い(「もし自分の子供が殺されたら、その犯人に死刑を望むか」)においても、「弁護士」という立場から主張する<城戸>の姿には、「主張」の正しさに比して「感情」の歪さを僕は感じたりもします。

その空虚さが、「他人のふりをする」という<遊び>を呼び込み、そこには日常を逸脱してしまう「何か」も潜んでいる。

…とまで言うと、チョット言い過ぎかなw。

 


平野さんは結構リベラルな主張をされる方で、そのことは本書にも出てきます。

ただその主張が物語の面白さを削ぐような風には僕は感じなかったですけどね。

ま、ここら辺は読む人によるかもしれませんw。

 


映画、どうですかね。

結構、映画向きな原作なようにも思います。

途中で放り出しちゃった「マチネの終わり」も読もうかなぁ。

いや、audibleだから、「聴こうかなぁ」かw。

 

 

 

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