・たちどまって考える
著者:ヤマザキマリ
出版:中公新書ラクレ
ヤマザキさんがそう考えてるって訳じゃないんですよ。
<ここまで書いてきて感じているのは、日本はもしかすると、成熟すること自体に興味がない国なのかもしれな、ということです。日本へやってきた多くの外国人がかつて覚えた印象通り、無邪気で天真爛漫で、時々背伸びを楽しみたいだけの国かもしれない。
だとしても、世界的な先進国の基準に合わせたいという必要があるのなら、時々でも俯瞰で、自分たちの生きる国にどういう特徴があり、どんな歴史をたどってきたのか、そして私たち日本人がどういう民族でどんな性質をもっているのか、振り返ったほうがいい。過去の失敗も欠点も反省点も踏まえたうえで、文化人類学的な視点も借りながら客観的に見直す目を、もっと養ってもいいような気もします。>
この後段が重要で、僕も全く同感なんですが、一片、
「無邪気で天真爛漫で、時々背伸びを楽し」むんでもええやん!
と思わなくもない時もあったりして…w。
まあでも、「欧米のやり方だけが正しい訳じゃない」「我々には我々のやり方が」…とかいう時には、だいたい自意識が変な方向に肥大化してるってのがパターンですからね。
もちろん「欧米万歳」って話でもありませんが。(それはそれで思考放棄してるだけ)
コロナ対策については、結構それぞれの国の文化的な背景や、医療制度のあり方が、感染者数・死者数の増大に関係してるんじゃないか(逆に言えば、遺伝子とかはあまり関係ない)と、僕は考えるようになっています。
「ファクターX」があるとすれば、それは文化的・制度的なもの…ってことですね。
医療崩壊を起こし、死者数が爆発的に増えた「イタリア」について、そこら辺りのことを知りたくて、本書を読んでみました。(イギリスに関してはブレイディみかこさんの著作が参考になりましたので)
「財政悪化に伴う医療制度の効率化(縮小)」
医療崩壊を招いてしまった直接的なキーは、ここにある…ってのは確かなようですね。
同時に濃厚接触を良しとする文化的背景(ハグ、キス、握手、会話重視等)、高齢化の進展と高齢者との距離感等がそこに拍車をかけた…というのがヤマザキさんの推理。
…まあそうかなと思います。(「答え」はまだまだ出ていませんが)
意外だったのは「中国」に対する反応でしょうか。
イタリアでは「中国」への反感というのはほとんどないとか。
その経済的・歴史的背景とか、それを許容する歴史観とか、ここら辺の話は「へぇ」って感じもありました。
まあ経済的に独立してやっていけるような国じゃない…ってのがイタリアの宿命ってのは、確かにあるでしょうから。
その「重み」を通してみたら、確かに日本の有り様は「天真爛漫で軽い」と見えても仕方ないかもしれませんw。
ヤマザキマリさんの「教養」の厚さや、日本を外から見る「視点」等、なかなか興味深い本ではあります。
(日本批判的な論調が前に出るのは、本書の性格上、仕方がないでしょう。決して「イタリア万歳」「西洋万歳」ってスタンスではありません)
同感できるとこともあれば、「それはどうかな」って思うところもあり。
でもそういうことを考えさせるってのが、こういう本の役目でもあるか、と。
「漫画家は漫画描いてりゃいいんだよ」
って話じゃありませんw。