鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読んどいて損のない一冊:読書録「誰が日本の労働力を支えるのか?」

・誰が日本の労働力を支えるのか?
著者:寺田知太・上田恵陶奈・岸浩稔・森井愛子(野村総合研究所
出版:東洋経済新報社

誰が日本の労働力を支えるのか?

誰が日本の労働力を支えるのか?


野村総研が、人工知能の労働力代替に関する調査で有名なオックスフォード大学と協力して、日本における労働力の近未来像(2030年を想定)をシミュレーションした作品。
労働人口の将来予想を踏まえ(減るのは間違いない)、その減少分を「外国人労働者」「デジタル労働者(AIやロボット)」で補えるのか。その可能性と将来予想を整理してくれています。
この手の話に興味がある人にとっては「目新しい話」はないでしょうが(僕もそうです。専門家じゃないですけどねw)、データを整理した上で、論理的に将来予想を論じているという意味で、非常に興味深い作品だと思います。
「一読に値する」
僕の評価はこれに尽きますね。


外国人労働者」と「デジタル労働者」についての重要ポイントは以下でしょう。
外国人労働者:「門戸を開くべきか否か」が論じられているが、すでに世界的にも労働人口は不足する局面に入りつつあり、「望んでも来てくれない」という可能性の方が現実的。(中国・インドですら「労働人口不足になりつつある)
デジタル労働者:「日本の労働者の49%はデジタル労働への代替可能」。ただし汎用AIの実現可能性は低く、デジタル労働者と人間の協業が現実的。問題は人間サイドの「許容度」。


これらの前提を踏まえ、本書では「小売」「物流」「ヘルスケア(医療)」の3分野についての「未来シナリオ」を描いています。一番興味深く、オリジナリティがあるのはここかな?
「ヘルスケア(医療)」に関しては、「公的サービス水準が維持されるか、切り下げられるか」「人工知能診断が許容されるか否か」という基軸をベースに、4つの将来像が描かれています。
「課題認識の社会的醸成が進まず、制度改革がなされないまま、医療制度は現場から徐々に崩壊」ってのが「公的サービス水準維持/人工知能診断ネガティブ」のシナリオ。一番「現実的」っぽいってのは、僕の知識不足でしょうか?(そうだとイイんだけど)
「公的サービス水準維持/人工知能診断許容」が「画一化された医療サービスの中で、より自分らしい生き方・死に方の選択がQOLを決める」、
「公的サービス水準低下/人工知能診断許容」が「民間事業者の参入によりサービスは多様化、『ファスト病院』から『ファースト病院』まで揃う」、
「公的サービス水準低下/人工知能診断ネガティブ」は「医療とビジネスは融合し、誰もが予算と相談しながら医療サービスを提供したり、受けたりする」。
「もれなく/だぶりなく」とは思えませんがw、可能性の整理をするには結構イイ区分なんじゃないかと。


結局、「未来」は「どうなるか」ではなく、「どうするか」選択の問題と言えるでしょう。
外国人労働者」を受け入れる方向に舵を切るなら、「彼らに選ばれる」環境を作るべく、社会を変えていく必要があります(制度・法律によって)。
「デジタル労働者」への代替を進めるのであれば、その「許容」のあり方を、「デジタルを人間に合わせる」のではなく、「人間をデジタルに合わせる」方向に進めなければなりません。
その「選択」をしないのであれば、「労働人口」が減っていくという現実を前に、我々の「未来」は縮小し、子供たちは「貧困」のリスクにさらされることになります。
本書の最後は(当然)「教育」について語られていますが、これもまた大きな「選択」の一つです。


その「選択」のタイミングは「今がギリギリ」。
本書が問いかける一番の主張はコレじゃないですかね。そしてそれは十分に根拠があることだと、僕は思います。
個人的にはポジティブに受け止めたいと思ってはいるんですけどね。(「働き方改革」などは、正しく進められれば、その「一歩」となるはずです)