・ムハンマド 世界を変えた預言者の生涯
著者:カレン・アームストロング 訳:徳永里砂
出版:国書刊行会
出口治明さんの著作を読んで、「もうちょいイスラム教について勉強せんとな」と思って手に取った作品。(出口さんの紹介本です)
宗教学者がイスラム教の創始者「ムハンマド」について、その生涯と教義を重ねながら描いた作品です。
<9.11以降、一部の欧米メディアはムハンマドを救いがたい戦争中毒者だと主張して、十字軍時代に遡るイスラームへの「伝統的な敵意」を持ち続けている。>
<ムハンマドは暴力的な人間ではなかった。彼の偉大な業績を正しく評価するため、私たちはバランスの取れた見方で、その生涯に取り組まなければならない。不当な偏見を助長すれば、西洋文化の特徴であるはずの寛容性と寛大さ、思いやりをそこなうことになる。>
こういう問題意識から、作者はムハンマドの生涯を、その時代的制約を踏まえつつ、宗教的評価は抑えながら描いています。
僕自身はムハンマド(マホメッド)の生涯についてはザク〜っとしたアウトラインしか知らなかったので、「ヘェ〜」って感じでした。
ただまあ、その時代的制約やら教義の部分がスラッと頭に入ってこないのもあって、「読みやすい」とまでは言い切れませんでしたがw。
僕自身が、自分に「知っておいた方が良い」と思った点は以下です。
①ムハンマドの教義は、暴力的で抑圧的な側面の強い砂漠の哲学「ジャーヒリーヤ」に対する改革的な側面があり、社会改革的な色彩も強い。
②彼の教えは、多様性の許容しており、排他的でもない。(歴史的・地域的な観点から見れば)極めて平和主義的でもある。
③女性の権利に対しては革新的なまでに擁護的(その点は現代水準に比しても)。「ハーレム」に関しても、時代的・社会的制約から考えると、女性の権利を確保する側面が強い。
人間としてのムハンマドは、確かに革新的で信念を持った人物ではあるものの、個々の局面では割と迷いも見えたりします(そこをアラーが正すわけですが)。
ぶっちゃけ、
「ご苦労さんです…」
って雰囲気も。
まあ、時代性・地域性を考えると、「宗教的側面」と「政治的・軍事的側面」は切り離して考えた方が良いのかも…って感じもしました。
そういう考え方自体が、イスラム教的観点からどうなのか、ってのは別として。
「クルアーン」の特殊性もあって、イスラム教の本質を掴むのはアラビア語を使わない人間にとってはなかなか難しいところがあるかなぁとは思います。
またムハンマド以降の歴史の中で「イスラム教」がいろいろな捉え方をされるようになってるってのもあるでしょう(それこそ「テロリズム」との関連性とか)
ただ「イスラム教徒」ではない人間が、その教義原点としての「ムハンマド」の姿を垣間見るという点で、本書は意義あるものだと思います。
読むと、「ジハード」が「聖戦」ではなく、「奮闘努力」なのだと、よくわかります。
<彼の生涯は、強欲、不正、傲慢への根気強い反対運動であった。彼は、アラビアが岐路に立たされており、古い考えではもはや立ち行かないことに気付き、全く新しい解決策をみつけるために独自の努力をしたのである。>
そういう人物として「ムハンマド」を捉え直すことは、「イスラム」理解の上で重要な意味を持つと、僕自身も思うところがありました。
全然、宗教的な人間じゃないんですけどね、僕自身はw。