・シーア派とスンニ派 【中東大混迷を解く】
著者:池内恵
出版:新潮選書
「シーア派」と「スンニ派」。
イスラム教の二大宗派であり、イラン革命以降、この宗派対立が中東のゴタゴタに関係している「らしい」
…と言うことで、何度かそれぞれの宗派についての説明を読んだり聞いたりしてたんですが…
さっぱり頭に入らない。
どうもムハマンドの血筋に関わりスタンスの違いが大きいようなんですが、どっちがどっちだか、いつも分からなっちゃうんですよね。
「さて、どうしたもんか」
と言うのは漠然といつも心に引っかかってたんですが、僕がイスラム専門家としてフォローしている池内さんが新作でその解説をしていると言うことで、
「ここで!」
と思い切って、読んでみました。
大正解!
少なくとも個人的にはスッキリ整理されました。(もちろん専門家になるわけじゃないんで、「今、自分にとって必要な範囲で」ですがね)
「シーア派とスンニ派の宗派対立というのは中東の現実としてある。
しかし教義の対立等、<宗派対立>が先んじてあるのではなく、<宗派>が生活・文化に密接に関与し、コミュニティの土壌となることから、世俗的・政治的対立につながるコミュニティの対立が<宗派対立>として可視化されている側面がある」
…ザクーっとした僕の理解はこんな感じです。専門家的には違うかも知んないし、精密じゃないかもしれませんが。
そして現代の中東を覆う地政学的な政治的対立としては、
<現在の中東国際政治は、サウジアラビアとイランの間の、ペルシア湾を挟んだ地域大国同士の覇権競争を軸としている。サウジとイランは、それぞれの政治的・戦略的な思惑から、中東の様々な国や勢力に介入し、配下に置き、同盟する。それによってそれぞれが自陣営・連合を形成していく。陣営が形成された後で、あるいは陣営を形成しようとする過程で、宗派のつながりが強調され、利用されるのである。 >
僕自身の「気づき」としては「イラン」の存在感、ですね。ここまで大きな影響があるとは思ってなかったです。
シーア派の歴史的経緯や教義の特徴
イラン革命の背景と、その周辺諸国(特にサウジアラビア)への影響
レバノンの状況(レバノン内戦の経緯が、よーやく分かった気がしますw)
「アラブの春」後の「まだら状の秩序」(…混乱しとるけど)
バクーッとは知ってる気になってたけど、改めて読むと、
「おお、そうやったんか」
ってことのオンパレードw。
サウジとフリードマン(「フラット化する世界」の作者)との「癒着」とか、(ちょっと陰謀論っぽいけど)なかなか興味深いです。
イデオロギーが崩壊した後に<なに>が出て来るのか?
冷戦後の世界は、この「問い」を突きつけられているように思います。(例えば「国体論」のテーマも、日本におけるそのバリエーションと言えるかもしれません)
「宗教」と言うのはその「答え」の一つでしょうが、「そんな単純な構図じゃないよ」と言うのが本書が言いたいことなのかも。
中東の「今」を見るだけでなく、日本の「将来」を類推すると言う観点からも一読に値する作品かと。
少なくとも「シーア派」と「スンニ派」の区別はつくようになりますw。