鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

笑い事じゃないけど:読書録「大学改革の迷走」

・大学改革の迷走

著者:佐藤郁哉

出版:ちくま新書

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友人のFacebookで紹介されてて、面白そうだったので購入。

中学生の子ども二人の父親でもありますし。

 


帯にご本人も書かれてますが、まずは分厚さにビックリw。(500ページ弱あります)

ただ読み始めると、興味深くて、スラスラと読めてしまいます。

内容的にはここ30年ほどの「大学改革」の迷走っぷり。

読み終えて、

「笑っちゃいかんけど、笑っちゃう」

笑い事じゃないんですけどね。

 


取り上げられている個々の内容については(僕の学生時代以降の話がメインなので)僕には正確な論評はできません。


<教育についてだったら誰でも何かは言える>


ですが、自分の体験をベースに論評することのマズさについては、本書で何度も言及されてますし。

と言うことで、「感想メモ程度」を。

 


①「最高学府」を司る人々がコレでいいのかしらん?

これは「古典は本当に必要なのか、否定論者と論議して本気で考えてみた。」を読んだときにも思ったことに近いですけどね。

もちろん関係者の中には「専門家」じゃない方もいらっしゃる。

でも「最高学府」にたずさわる人であるのは確かなので、高い論理水準はあるはずですし、それは「大学人」も「官僚」も同じはず。

それがこう言う事態まで来ちゃうって言うのは…。

 

(事前の高い評価(期待)と、実際に起きたことのギャップが、往々にして「バッシング」に繋がってるって面もあると思ってます)

 


②「ビジネス理論」って所詮「ツール」何だけどなぁ。

PDCAをはじめ、色々導入されてきたビジネス理論について本書は否定的です。(理論の内容というより、その理解と使われ方の方ですが)

まあ、そうなんですが、所詮「ツール」ですからね、こういうのは。

「ビジネスとは何か?」っていうのは、それ自体が壮大なテーマですが、一つ言えるのは「差異を生むこと」。要は「他社とは違うことをして、付加価値をうみ、そこから利益を生む」ってことです。

「そのためにどうするか」の試行錯誤がビジネス理論であり、したがって「みんながやるようになったら、そのツールは使えなくなる」ってことでもあります。(「ビジネスに正解はない」)

情報の行き渡る速度の速い現代においては「ツールが使えなくなる」速度も速い。

従ってドンドン新しい「ツール」が登場してくる。

こういう構図を考えると、10年とかかけてビジネスツールを導入する…ってのは「笑い話」。

ま、(作者もおっしゃるように)「常識」レベルでの「PDCA」ってのはありうべしとは思いますがね。(「PdCa」には思い当たることも…w)

 


③最大のポイントは「予算の獲得」

これは本書でも指摘されていますが、そもそも教育に回される予算が少なすぎる。対処療法をあれこれやっても、この根本が解決されない限り、綻びはあっちこっちから出て来ざるを得ない。

「大学の現場」も「官僚(文科省)」も、「大学改革」に付き合ったのは、「言われることをちゃんとやってれば、予算が増えるはず」と思ってたかもしれません。

ただそれは「上手くいかなかった」。

人口ボーナス期で経済が拡大している局面であれば、「予算を増やす」ってのは比較的簡単に受け入れられます。「増えた分」をどう配分するか…って話だから。

でも人口停滞から減少期になると経済は停滞・縮小となり、そうなると「予算を増やす」ためには「どこかを減らす」必要が出てきます。(パイの縮小以上に)

「教育の重要性」はみんな分かってるでしょう。

ただ「どこを減らしてそこに回すべきか?」が判断できない。

ロビー活動って結構批判的に捉えられてると思いますが、こういう局面においては「この案件は他よりも重要であり、他の予算を減らしてでも予算を増やすべき」ということを社会や政治家に納得させるためには、やっぱりロビー活動が必要なんですよ。

本書への不満を挙げるとすれば、ここら辺をもっと突っ込んで欲しかったかなってとこでしょうか?(ムチャ難しいのは承知してます)

 


<この本で提案していくのは、(1)悪者さがしの構図それ自体を相対化すること、(2)失敗に至るまでの経緯を確実なデータにもとづいて明らかにした上でその経緯から教訓を学んでいくこと、という二点なのです。>

 


いや、そうだよねぇ…と思います。

もっとも「失敗に至る目での経緯」を読んでるうちに、「悪者さがし」したくなっちゃうって面もありますけどね。(作者の筆致にもそういう気配を感じなくも…w)

 


ま、過去は過去。

しっかりその失敗をチェックして、PDCAを回していきましょう!w

 

 

PS  ある意味、「全体を引き上げて行こう」ってのも難しい時代になって来てるとも感じています。

その観点から「我が家での教育」については「大学改革への期待」とは別に考えていく必要があると認識していますし、対応してるつもり。

「ナショナルアイデンティティと教育」って観点については、また別に考える必要があると思ってますが。