・アダム・スミスはブレグジットを支持するか? 12人の偉大な経済学者と考える現代の課題
著者:リンダ・ユー 訳:久保恵美子
出版:早川書房
現代の経済的難問に、過去の偉大な経済学者たちはどう答えるか?
まあ、そう言う本です。
「経済学」ってのは<人の営み>を対象としているだけに、どうしても「時代」や「環境(場所)」の制約に縛られる。
たしかに「偉大」なのかもしれないけど、だからと言って、「今」の問いに答えを導き出せるわけが…
と言う見方もあるでしょうが、例えばケインズはこう言ってます。
<経済学者や政治哲学者の思想は、それが正しくても誤っていても、一般に考えられているより強力である。むしろ、それ以外に世界を支配しているものなどほとんどない。自分はいかなる学問的影響も受けていないと考えている実務家たちは大抵、すでに亡くなった経済学者の奴隷になっている。天からの声を聞いている狂った権力者らは、数年前に論文を書き散散らしていた学者からその狂信的な考えを受け継いでいるのだ。思想が徐々に人を侵食する力に比べれば、既得権益の力は大きく誇張されていると私は考える。>
「キャッシュ国家」の感想のところにも書きましたが、現在の中国の経済戦略にはシュンペーターの考えが反映していると思われますから、この指摘にも納得感があります。
(それが「狂信的な考え」かどうか分かりませんがw)
<キャッシュレス国家>
http://aso4045.hatenablog.com/entry/2019/05/17/120753
本書で取り上げられてる「偉大な経済学者」と、与えられた「問い」は以下。
アダム・スミス「政府は経済のバランスを調整すべきか」
デヴィッド・リカード「貿易赤字は重要な問題か」
カール・マルクス「中国は富裕国になれるのか」
アルフレッド・マーシャル「格差の発生は避けられないのか」
アーヴィング・フィッシャー「1930年代が再来するおそれはあるのか」
ジョン・メイナード・ケインズ「投資をすべきか、控えるべきか」
ヨーゼフ・シュンペーター「何がイノベーションを促進するのか」
フリードリヒ・ハイエク「金融危機から何を学べるか」
ジョージ・ロビンソン「賃金はなぜこれほど低いのか」
ミルトン・フリードマン「中央銀行は仕事をしすぎているのか」
ダグラス・ノース「なぜ豊かな国はこれほど少ないのか」
ロバート・ソロー「低成長の未来がやってくるのか」
ポール・サミュエルソン「グローバル化への反発にどう対処すべきか」
作者はそれぞれの学者の人生を追って、彼らの「時代的場所的制約」を明らかにしつつ、導き出されている一般性から問いへの答えを模索します。
<偉大な経済学者たちの人柄はそれぞれ大きく異なり、経済の仕組みに関してその意見が鋭く対立することもあったが、似ている点も多かった。中でも重要なのは、彼らが最大の経済問題に取り組むために一般的なモデルを考案したことである。だからこそ、彼らの思想は現在でも有意義なのだ。彼らの人生や研究が残したものは、当時も今も、思想がつねに社会に永続的な影響もたらしてきたことを証明している。>
…とか言って、改めて一覧を眺めてみると、
「さて、その答えってどうだったんだっけ?」w
いや、読んでる時はすごく興味深かったし、わかったような気にもなってたんですけどね〜。
まあスパッと「コレ」って感じじゃなかったのはたしかですが。
基本的には、
「自由主義的なスタンスから、グローバル化と貿易の自由化は進めていくべき。ただし国家の制度・成り立ちによって差が出てくることに配慮しなければならないし、国内における格差問題にも目を配る必要がある」
って感じでしょうか?
えらいザクっとやし、間違ってるかもしれんけどw。
(経済学的なスタンスはどうしても「自由主義的」になるでしょう。ただ現代はそこの<政治的><社会的>要因が入らざる得ない/考慮すべき時代。
もっともそうあるべきでしょうね。「ヒトの営み」を扱う以上は。
我々は「長期的にはみんな死んでいる」存在。重要なのは「中期的・短期的」な解決です)
ちなみに題名に対する「答え」はありません。
というか、「問い」すら立てられてないw。(原題は「The Great Economists」やし)
アダム・スミスのスタンスから考えたら「ネガティブ」でしょうがね。
インパクトのある訳題だし、僕もそこに惹かれて購入したんですがw、これはちょっとどうかなぁ、と思わなくもありません。
いい本だけにね。
しかしまあ、振り返れば自分の不勉強さも痛感しますわ。
なんとか挙げられてる経済学者の<名前>くらいは記憶のカケラがありましたが、主張の中身については6、7割って感じ?w
別に学者じゃないんで、良いんですが、それにしてもね。
「これから」を考えると、
資本主義のエンジンである「イノベーション」を国家戦略として推し進めようとしている中国の成長がどうなるか、
それに対する米・EUの保護主義的な動きが世界経済をどういう方向性に導いていくことになるのか、
その狭間での「日本」における成長戦略の推進は上手くいくのか…
(存外、今の日本の経済政策は評価されています)
「お先真っ暗」な感じじゃぁないと、個人的には感じてるんですが、さてどうでしょうか、アダム・スミスさん。