鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

利他主義がどこまで未来を変えることができるか:「2030年 ジャック・アタリの未来予測」

・2030年 ジャック・アタリの未来予測 不確実な世の中をサバイブせよ!
著者:ジャック・アタリ 訳:林昌弘
出版:プレジデント社


フランスの思想家ジャック・アタリの未来予想。
「思想家」と言っても、ミッテランの顧問なんかもしてて、最近ではマクロン大統領が政治の舞台に登場する後押しもしたとか。
思想家や学者が政治に積極的に関与するって点では、実に「フランスらしい」人物。


本書は「2030年」を節目として、今までの流れを踏まえつつ、今後の世界・社会情勢について考察を食えわえた作品。
基本的には民主主義・資本主義・自由主義が、今までの歴史の中では「世界情勢」を良くしてきたと評価しつつ、その不具合も生じつつある…と現状を評価。
今後は、その「不具合」が社会の軋轢となって、世界を破滅の淵に追い込む可能性が高い。
…と、ナカナカ沈鬱な未来図になっています。


作者が描く「科学技術」のイノベーションの未来図はかなり「楽観的」だと思うんですが(ここまでのことが2030年に達成できるとは、ちょっと僕には思えませんでした)、それでもなお、世界は危機的状況に向かうだろう、というのが作者のスタンス。
まあ、科学技術だけで世の中を変えるのには限界がある。
問題はそれを「使う側」。
人間が持つ欲望や野心、様々な感情を、現在の民主主義・資本主義・社会主義ではコントロールし切れない、というのが、作者のスタンスなんじゃないかと、読みました。


従って作者が未来に向けて必要だと考えているのは「利他主義」。
その「利他主義」に根差した思想の確率と、それ基づく国際的な法整備、国際機関の設立。
作者が説いているのはそういうことだと思います。


<世界が地球規模の法整備のない状態でマネー崇拝と利己主義というイデオロギーに支配され続け、われわれが自分たちの精神と「歴史」の方向性を軌道修正するために迅速に行動しなければ、つまり、地球規模で利他主義が根づくことがなければ、調和のない世界になるどころか危機が次々と訪れるだろう。>


<われわれは、現代を席巻する利己主義、貪欲さ、野蛮さなどに代わる、利他主義、共感力、優雅さの倫理を次世代の利益に活かすために、死ぬ瞬間まで必死になって戦わなければならないのだ。
「自分自身ができる限り高貴な生活を送りながら世界を救う」
この奇妙な文句は、自己と他者の利益の見事な一致であり、いかなる時代であっても、どれほど大きな危機に直面しても、適用可能な革新的な寸言である。>


理想的過ぎる?
確かに。
作者はこの「実現」のためのステップも記していますが、それを読んでなお、「理想的」と言う印象は残ります。


しかし、ではどうしたら良いのか?
「困難」と分かっていてもなお、「危機」の回避のために、「今」一歩を進めなければならないのではないか?
作者が主張するのはそう言うことでしょう。そのために本書は書かれたのだと思います。


<危機が迫っていると自覚することが絶対に必要だ。そうした自覚こそが、危機を回避するための唯一の方法なのだ。>


本書には「日本」の経済的(公的債務の巨大さ)・地政学的(北朝鮮・中国)の「危機」の状況についても、筆が割かれています。
読んでると、なお一層、危機感が募ります。


「理想的」かもれない。
しかしながら「現実的」なスタンスに現状の危機を突破する見通しがあるのか?
未来は予想するものではなく、作るもの。
そう考えると、この「未来予想」の意味合いがより強く感じられます。
「予想」の精度をはかるのではなく、「行動」への一歩を後押しするための一冊。
本書の意義はココにあるんじゃないでしょうかね?