・もっと言ってはいけない
著者:橘玲
出版:新潮新書
知能や、精神疾患、犯罪傾向等について遺伝の影響が大きいと言うことを科学的統計的に論じた前作の続編。
(前作の感想はこんな感じです。
http://aso4045.hatenablog.com/entry/20160529/1464505004)
本作についてはそれをさらにと言うわけではなく、作者によればこう。
<このタイトルは、「言っちゃいけない」ことをもっとちゃんと考えてみよう、と言う意味で、本書では「私たち(日本人)は何者で、どのような世界に生きているのか」について書いている。その世界は、一般に「知識社会」と呼ばれている。>
知能は遺伝の影響が大きいと言うとこから、人種や進化との関係を論じた本と言うのは読み終えてからの感想です。
正直言うと、ちょっと読むのがめんどくさかったですねw。統計やら何やらが結構論じられているので。
その分、言ってる事は「そうなんだろうな」と言う印象。それが「言ってはいけない」って言うふうに捉えられる可能性もよくわかります。
個人的には、まず、
「統計は統計であって、自分の身の回りの現実を説明してくれるわけじゃない」
てのがありますかね。
有り体に言えば、「アジア人の知能指数が高い」からといって、自分の知能指数が高いわけじゃないし、知能指数が高いことが個人や社会において幸福であるかどうかにつながるかっていうのはケースバイケースってことです。
そもそも、統計っていうのは技術的に差異が生じやすいものだし、その解釈も結構難しいところがあります。
かつて科学的に正しいと言われていたことが、その後覆されるなんていうのは普通にあることですからね。
常に懐疑的な態度を留保し続けることが最も「科学的」な態度だと思います。
本書を読んで面白かったもう一つは、
「意外に短期間で遺伝的な影響っていうのは変わるんだな」
てことです。
もちろんほとんどの遺伝子は千年万年の単位でしか変質しないのですが、特定のケースでは数十年百年と言う単位で遺伝の影響が変わることがあり得ると言うことが本書では紹介されています。
短期的には思っている以上に社会的な影響よりも遺伝の影響が大きいというのが作者の基本的な主張ではありますが、その遺伝が結構社会的な影響受けやすいと言うことも認識しておく必要があるでしょう。
まぁ、いろいろ難しい時代になってきていますよね。
ポリティカルコレクトに合致しないデータが歪められてきたと言う主張がある一方で、そういうデータが過剰な主張とつながって流布されるような状況もあります。
所詮、統計は統計でしかなく、それをどう解釈し使うかは人間に委ねられています。
SNS等によって、さまざまな情報が個人に伝わるようになった時代の中で、どうそれを使っていくかっていうのは、結局「哲学」に委ねられることなのではないかと考えたりします。
データから「事実」を読み取り、それを最大多数の幸福に向けて活用出来るように制度や仕組みを変えていく。
現代の「哲学」にはそういう役割が求められるのではないかと。
前作や本書で述べられている「データ」を受け止めながら、それを隠蔽するのではなく、それを踏まえた上で、
「じゃぁ、どうすべきなのか」
と言うのを考え、行動すべきだと言うことです。
リベラルを標榜する作者の意図そういうところにあるんじゃないかなぁ。