鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「今、そこにある危機」:読書録「ロボットの脅威」

・ロボットの脅威 人の仕事がなくなる日
著者:マーティン・フォード 訳:松本剛史
出版:日本経済新聞社

ロボットの脅威 ―人の仕事がなくなる日

ロボットの脅威 ―人の仕事がなくなる日


ここのところ「人口知能」絡みの本を、「楽観派」「悲観派」双方のものを読んでたんですが、本作はその一歩手前、「人口知能」がシンギュラリティ・ポイントを越える前段階での、「自動化」が人間社会に及ぼす影響について論じた作品です。(一部、その点に触れた章もありますが)


「ロボット」っていうと、なんだか産業用機械の延長なものや、介護用補助ロボット、あるいは「pepper」君たちwの印象があります。そうしたものももちろん含まれるんですが、それ以上に情報テクノロジーの進化によって、低スキルだけでなく、高スキルまでもが(機械学習によるアルゴリズム等により)「自動化」され、そのことが知的労働者や創造活動、(現状では)高度な判断を要する職業にまで影響を及ぼす…というのが本書のメインストーリーになります。
その「脅威」が、具体的な事例や技術革新の現状を開設しつつ、「少し先の未来」として描かれています。そうした「変革」が「経済」や「社会」にどのような影響を及ぼすかにまで論は及んでいて(いわゆる「格差論」をテクノロジー進化の面から論じ、警鐘を鳴らしています)、なかなか視野の広い内容になってますよ。
そういう意味じゃ、「ロボットの脅威」っていう題名はちょっと間口の狭い印象を与えちゃうかもしれません。


「悲観論」と言えば「悲観論」。でもなかなか否定しづらい面が多いんじゃないかなと思います。
「経済」「社会」の影響について語っているパートなどは、「既得権益者」や「資本所有者」による「政治」への介入が事態を悪化させる可能性などにも言及していて、リアル感もあります。
「医学」に関しては「自動化」の進みにくい分野として取り上げられているのですが(個人的には「どうかな?」とも思いますが)、むしろここは「既得権益層」が「自動化」や「合理的な変革」を妨げ、そのことで「社会」的な負荷が高くなる「難問」分野として描かれています。
こういう「自動化」の脅威を避ける上においては「教育」こそ重要だ…ってことはよく言われるんですが(今の教育改革でも言及されてたように思います)、「話はそんな単純じゃないんだ」ってことも解説されてますね。


原書は2015年出版で、フィナンシャルタイムズ&マッキンゼー2015年「ビジネス・ブック・オブ・ザ・イヤー」。まあ、それがどの程度有難いものなのかは分かりませんがw、「情報」は「新しい」ですよ。そういう意味で、「今」を捉えるには良い作品なのは間違いありません。
(一方で、「じゃあ、どうしたらいいか?」ってことについては「もうひとつ」なんですが。割かれた章は「一章」。「ベーシック・インカム」が挙げられています。
(近い将来での)この導入の困難性は作者も認識しており、それまでに取りうる施策も挙げられていますが、如何にも薄い。)


<最大のリスクは、(中略)テクノロジーがもたらす失業と、環境への悪影響がほぼ同時に、互いに強化・増幅し合いながら進行していくということである。だが、テクノロジーの進歩を解決策としてーそれが雇用と所得の配分にどんな意味合いを持つかを認識し適応しながらー十分に活用できれば、結果ははるかに楽観的なものになるだろう。こうしたさまざまな力が、絡み合う状況をうまく乗り切り、広範囲に安定と繁栄がもたらされる未来を作り出せるかどうかが、この私たちの時代にとって最大の挑戦となるかもしれない。>


この困難さが本書で論じてるわけなんですけどねぇ。