鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

柳生宗矩。このシリーズではちょっと考えが浅いw:読書録「欺瞞 勘定侍<六>」

・欺瞞 勘定侍 柳生真剣勝負<六>

著者:上田秀人

出版:小学館時代小説文庫

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時代小説で「柳生宗矩」の評価にはバラツキがあります。

「柳生武芸帳」を書いた五味康祐さんの評価はスゴく高かった覚えがあります。

山田風太郎さんの場合は「魔界転生」で十兵衛と闘いたくて魔界に堕ちたんだから、それなりの実力は…。もっとも勝てませんでしたがw。

「柳生一族の陰謀」の宗矩は「剣豪」というより「陰謀家」の方が強いかな?

史実はどうか…ってのは何とも言えませんが、石舟斎が印可を宗矩じゃなくて兵庫助に継がせたあたりをどう評価するか。

これも深謀遠慮…って話もありますからねぇw。

 


本作の宗矩は「剣豪」「武将」としてはそれなり。でも剣豪としては十兵衛に落ちます。

「政治家」「陰謀家」としては、総目付を務め上げただけのことはある一方で、時代が貨幣経済に移りつつあることを理解できず(ここが主人公との軋轢になります)、家光・幕閣の意向を読みきれないあたり、そこまで優秀であるとも読めません。(宗冬が「粗忽者」なのでw、そこまで悪くは見えないけど)

ほどほどの「悪役」かなぁ、今のところ。

そういう輩の方が厄介だったりもするんですけど。

 


柳生十兵衛については、フィクション界のヒーロー像に合致するキャラになってるんじゃないでしょうか。

主人公のこともちゃんと評価してますしね。

今のところ主人公の味方になってますが、これが敵に回ると厳しくなるなぁ…というのが6巻を読んでの感想。

上田作品の場合、敵味方の立場がコロッと変わるってのも珍しくないからなぁ。

 


#読書感想文

#勘定侍

#柳生真剣勝負

#上田秀人

生き残るために必死に駆けたってことじゃないかなぁ:読書録「誤解だらけの徳川家康」

・誤解だらけの徳川家康

著者:渡邊大門 ナレーター:菅原公平

出版:幻冬舎新書(audible版)

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来年の大河の便乗本…というと言い過ぎかもしれませんがw、まあ時期的に「だから企画が通った」ってのはあるでしょう。

徳川家康の人生で伝説化したエピソードをピックアップして、最新の研究成果からその正否を解説する…って内容です。

 


取り上げられているのは、ざっとこんなエピソード。

 


・桶狭間の戦い後の「清須同盟」

・徳川姓への改名

・三方ケ原の戦いでの脱糞と自画像

・長篠の戦いの実像

・松平信康の切腹

・光秀の家康饗応事件の真実

・本能寺の変後の動き

・小牧・長久手の戦いでの「敗北」

・秀吉との関係

・五大老・ご奉行

・三成・兼続の事前密約説の真偽

・三成の挙兵

・秀忠の関ヶ原遅参

・関ヶ原の戦いの逸話の数々

・家康と秀忠の関係

・家康と真田家

・大坂の陣の逸話

 


日本史好きだとここで挙げられてる解説の内容に驚くようなものはないですかね。(僕は驚きませんでした)

三方ヶ原の脱糞・自画像はいいエピソードなんですが、まあねぇ。

松潤が家康やるには最新研究成果はありがたいかもw。

 


家康の汚名は「大坂の陣」で豊臣家を滅ぼした経緯によるところが大きいと思いますが、経緯を追っていくと、

「なんで秀頼は<徳川傘下の一大名>で生き残りを謀らんかったのかなぁ」

と思わざるを得ません。

秀吉の信長の子供達の扱いや、頭下げまくって来た家康の人生との対比においてもね。

淀殿を人質に差し出すことを頑なに拒んだのもなぁ。

大人になった秀頼は結構立派になってた…って説もあるけど、ここら辺のことを考えると、「どうかなぁ」と思ったりもします。

 


さてさて、来年の大河はどうなりますかね。

ここら辺の「最新研究成果」も踏まえたものになるんでしょうか?

「わかっちゃいるけど、敢えて」

…と三方ヶ原伝説を演ってくれるくらいだったら、期待できる気もするんだけどなぁw。

 

 

 

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サイバーパンクの懐かしさ:アニメ評「サイバーパンク:エッジランナーズ」

最近通うようになったジムでは、有酸素運動用マシンを使ってる間、テレビやSpotify、Netflixなんかに接続できるようになってるんですよね。

50肩がホドホドになって来たので、筋力UP &ダイエットのためにエアロバイクなんかやってるんですが、その間に見てたのがコレ。

1話30分弱で、ちょうど時間がいいんですよw。

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もともとは「サイバーパンク2077」というゲームの前日譚のようです。

ゲーム自体はバグが多くて「失敗作」と言われてたようですが、このアニメの人気もあって、ゲームそのものの人気も上がっているとか。

その情報もあって、ジムで見るのにチョイスした訳です。

 


設定的には人間が体のパーツを置き換えるのが普通となった時代。

ネットに接続することでネットダイブもできるようになっていて…と、まあ「攻殻機動隊」ですわw。

攻殻機動隊がネットの方に比重があったのに比べると、こっちはサイボーグ化の方にウエイトがあるかな?

でもって舞台となる「ナイトシティ」という街は、その猥雑さにどこか「ブレードランナー」が…。

はい。

懐かしの「サイバーパンク」です。

 


アニメ的にはぶっ飛んだ表現も多用されてて、体動かしながら観るには結構向いてるかも…なんですが、キャラ設定や世界観、ストーリー展開なんかは、「デジャブ」な雰囲気もあります。

定められた破滅への物語。

主人公に心を寄せる報われないパートナー的な女性なんかも登場して…

いや、最終回には泣かされちゃいましたけど。

嫌いじゃないんですよ。こういうの。

 


「前日譚」なんだから、オチがこうなるのはまあ…。

でももしかしたら、ゲームの中にはあのキャラたちが

…ってことでゲーム人気が上がったってこともないだろうけどw。

 


え?

いやいや、僕はやりませんよ。ゲームの方は。

オープンワールドゲームだからなぁ。

時間が…。

でもなんか、チョットのぞいてみたゲーム動画は、なんか作り込まれてて、すごく…

 

 

 

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世界観が広がり、捻りっぷりも相変わらず:読書録「黄金の烏」

・黄金の烏

著者:阿部智里

出版:文藝春秋(audible版)

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八咫烏シリーズ第3作。

第2作まで読んで、

「続きを読んでもいいかな」

と思ったものの、手を出しかねていたのをaudibleで見つけて、DL。

 


シリーズは第1部全6巻、第2部が3巻まで出て継続中…とかなりの広がりを見せているようですが、この3作目がその端緒って感じかな。

「山猿」という<敵>が登場し、「人間界」との関係性なんかも見えてきて、「山内」の世界観、「金烏」の使命なんかも垣間見えるようになってきています。

まあ、第2作で飛び出したはずの雪哉がもう戻ってくるのも何な感じがなきにしもあらずですがw。

 


このシリーズ、とにかく1作目の「叙述トリック」ぶりが印象的ですが、本作でもそういう趣があって、

「この作者はこういう路線なんかな」

と推測したりします。

決して後味の良いものでもないので、個人的好みとしては「う〜ん…」ってところがなきにしも…なんですけどね。

一方で書きっぷりの鮮やかさはあって、その上手さを引き続き楽しみたい…って気持ちもあって、なかなか複雑でもありますw。

 


さて、続きをどうしますかね。

何作かはaudible化されてるので、気が向いたらそちらで…かなぁ。

 

 

 

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#黄金の烏

#八咫烏シリーズ

#阿部智里

「知識を得る」=「教養」じゃないけど、「じゃあ、教養って何?」と言われると難しい:読書録「ファスト教養」

・ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち

著者:レジー

出版:集英社新書(Kindle版)

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<立場が上の人(つまりはビジネスにおける意思決定を司る人)の繰り出す話題についていくことができれば、自身の印象を良いものにすることができる。それによって、自分の仕事をスムーズに進められる。その先には、収入アップや出世といった結果が見えてくる……こういった流れを生み出すためのフックとして、「教養」の重要性が各所で説かれている。>

 


<「教養」や「リベラルアーツ」という高尚な言葉で語られる概念は、現代の日本において結局のところ「個人の小金稼ぎのツール」として位置づけられている>

 


<ビジネスシーンで使える「話を合わせるのに最適なネタ」をクイックに仕入れて、「うまく立ち回る」ことによってお金を稼ぐ。そのためのツールとして最適なのが教養である、といった風潮をファスト教養というキーワードで説明してきた。>

 


…いやぁ、それって「教養」じゃなくて「商売(ビジネス)」だよねぇ。

とは思うものの、

「じゃあ、教養って何よ?」

と言われると、

「う〜ん…」

個人的には知識を積み上げる中から思想的・哲学的な人格が形成されていったもの…って感じで捉えてるんですが、定義化するのが難しいのは確かです。

「定義化」ってこと自体に向かないもんだ…とも言えるかも、ですが。

 


だから僕自身は「<教養>という言葉が商売に使われて、わかりやすく、安易に<知識>を習得する手法が売られている風潮」って思ってます。

ぶっちゃけ「そりゃ、<教養>じゃねぇだろう」ってことですが、一方で<知識>の習得に訳立つものがあるのは確かなので、それはそれで楽しませてもらってるってとこですかね。

それが「ビジネスシーンに役立つ」なんて思ってないし、役立った事もないw。

本書では「教養を活かして成功したビジネスパーソン」の事例として「スティーブ・ジョブズ」が挙げられていますが、確かにカリグラフィーや音楽へ傾倒、禅的趣味はAppleの成功に繋がっているのは間違いないでしょうが、「ジョブスが教養人か」って言われると、かなり「?」でしょう。

「人」としては相当問題のある人だったようですしねぇ…。

 


もっとも本書はかなり面白くはありました。

「ファスト教養」というブームに至る背景や歴史なんかを、シーン、シーンで活躍した「人」を具体的に挙げながら解説してるところが、すごく興味深い。

堀江貴文、勝間和代、田端信太郎、箕輪厚介、本田圭佑、中田敦彦

この流れとは少し違うアクションではありながらも、結果的には補完する動きになっている、

池上彰、出口治明、山口周、ひろゆき

「新自由主義」が浸透する中で、「自己責任」が言われるようになって、「個人としての成功」が「個人の努力」に強く結びつけられたことから、まずは「ビジネススキルの習得」「生産性の高い働き方」が言われるようになり、続いて「教養」にスポットが当たるようになった…ってところでしょうか。

まあ、挙げられてる著者の作品を僕も読んでますからね〜。

僕自身もそこに巻き込まれて、乗っかってたってことですかな。(箕輪さん、本田さん、中田さんの作品は読んだことないですね、そういえば)

 


流れの根本には「専門家やその権威に対する不信」ってのがある…っていうのは、トランプ旋風やBrexit騒ぎを持ち出すまでもなく、世界的な風潮でもあると思います。

それがコロナ禍でガタガタになってきてるってのもあって、「教養ブーム」を担いでいる人たちの中にも、「なんだかな〜」って発言・行動が散見されたのがこの数年でしょうか。

つけ刃の知識(ファスト教養)じゃ、本質的なところには届かないって話かなぁ…と考えたりしています。

コロナが終息しつつあるように見える今、それがどういう風に変わってくるかは、また分かんないですけどね。

 

 

 

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#ファスト教養

 

「あたしはどこまでもついてく、ポー」ティリーのこのセリフが痺れます:読書録「キュレーターの殺人」

・キュレーターの殺人

著者:M・W・クレイヴン 訳:東野さやか

出版:ハヤカワ・ミステリ文庫(Kindle版)

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「ワシントン・ポー」シリーズ第3弾。

このシリーズは事件の謎解きも面白いんですが、いちばんの読みどころはポーを巡るレギュラー陣との関係性にあります。

 


元部下で現上司のステファニー・フリン

吹っ飛んだ病理学者エステル・ドリン

そしてなんと言っても素晴らしいパートナー、ティリー・ブラッドショー

 


彼女たちとのやり取りが実に楽しく(特にティリー)、その関係性を楽しむのがシリーズの楽しみになってきています。

いや、事件の方を忘れちゃうくらい…w。

 


本作もその「楽しみ」は相変わらずで、「指を切り落とし、晒す」という連続殺人事件の陰惨さに比べて、前半のレギュラー陣の息のあったチームワークが読みどころになって…

…と思ってたら、中盤になってトーンが一変。

「キュレーター」という殺人請負者を追い詰める終盤に向けての息を呑む展開が連続し、冒険アクション的なドラマチックな展開があり、その果てに、ラストには心が冷えるような「真相」が読者を迎えます。

いやはや、なんとも読み応えのある…。

 


この後の2作がすでに発表されているとか。

ポーの「出生の秘密」を巡るドラマも継続してますしね。

いやぁ、続きが楽しみ、楽しみ。

1年待たずに、翻訳してくれませんかね?

 

 

 

#読書感想文

#キュレーターの殺人

#ワシントンポー

#mwクレイブン

 

図版はないんだけど、それはそれで興味深く読む(聴く)ことができました:読書録「合戦で読む戦国史」

・合戦で読む戦国史 歴史を変えた野戦十二番勝負

著者:伊東潤

出版:幻冬舎新書(audible版)

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audibleで聴いてると、地形や陣形なんかはピンと来ないんですが、リアル本の方では図版が収録されています。(本屋で確認しましたw)

audibleでも資料をPDFでアップしてる作品もあるんですが、本書は「なし」でした。

 


じゃあ、さっぱり分からないかというと、そんなこともなくて、聴いてるとそれなりにそれぞれの陣形やら動きやらが把握できるような気がします。

僕個人の興味がそっちよりも、武将たちの心理的な動きやら、全体の流れ、結果の意義なんかの方にあるから…ってのもありますかね。

自衛隊向けの雑誌に連載されたものらしくて、一次資料を重視して、<事実>を積み上げ、そこから推論を入れるというスタイルが、耳で聞いても頭に入りやすかった要因かもしれません。

「小説家らしく、もっと想像力を…」

という方には向かないでしょうが。

 


<十二番勝負>は以下。

 


1.河越の戦い(北条氏康)

2.厳島の戦い(毛利元就)

3.桶狭間の戦い(織田信長、今川義元)

4.川中島の戦い(上杉謙信、武田信玄)

5.三方原の戦い(武田信玄、德川家康)

6.長篠の戦い(武田勝頼、織田信長)

7.山﨑の戦い(明智光秀)

8.賤ケ岳の戦い(柴田勝家)

9.沖田畷の戦い(龍造寺隆信)

10.摺上原の戦い(伊達政宗)

11.関ヶ原の戦い(毛利輝元、德川家康)

12.大阪の戦い(德川家康)

 


僕は「沖田畷の戦い」は知らなかったんですが、これは戦国末期の武将「龍造寺隆信」が敗戦した戦いだったんですね。

川中島、沖田畷、摺上原の戦いは、戦国の有力武将たちが生き残りをかけて激闘した合戦なんですが、一方で信長・秀吉・家康という天下統一(戦国の終焉)の流れからは外れた、振り返ってみれば「外伝」的な戦いになっちゃってるかも。

河越・厳島なんかは、「戦国武将成り上がり物語」って感じなんですけど。

しかしまあ、確かにこの十二の合戦を見ることで、「戦国」の流れが概覧できる形になっています。

 


最新の資料や分析に基づいて整理された作品なので、従来の定説とは少し違ってるところなんかもあって、戦国に興味がある人にとっては興味深いかと。

一番「お?」と思うのは、関ヶ原における毛利輝元の位置付けなんですけど、ここら辺はご本人が最新作で小説に仕立てていらっしゃいますw。

そっちも読んでみようかなぁ。

来年の大河だし。

 

 

 

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