・操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか
著者:ジェイミー・バートレット 訳:秋山勝
出版:草思社
僕自身はデジタルやITに関しては「楽観主義者」であると思ってます。
ITの進化やAI の登場は中長期的には人間社会を豊かにしてくれる…というのがベース。(とは言え、若干懸念材料もあると思ってるので、懐疑的楽観主義者って言ったほうが、今はいいかもしれませんがw)
ただまあ、そういうスタンスだと、どうしても楽観主義的な話や著作を重視しがち。
なんで、こういう悲観主義的な見解の作品も定期的には読んでおこうかなぁ、と。
本書はイギリスのシンクタンクに所属するジャーナリストの著作。
作者自身は投票アプリなんかを開発したりもしてて、一時期はデジタル革命に期待を寄せてたんだけど、深く現場を知るがゆえに、その方向性、特に「民主主義」への悪影響に強い懸念を抱くようになった…という経緯を持っています。
それだけに単純な「IT怖~い」文系バカとは一味違ってますw。
作者が考える民主主義を支える柱は以下の6つ。
①行動的な市民
②民主主義の文化の共有
③自由な選挙の維持
④平等性の確保
⑤競争経済と市民の自由
⑥政府に対する信頼
これがデジタル革命のなかで揺らぎ、破壊されつつある状況が具体的に語られています。
①アルゴリズムに絡め取られ、デジタルに監視される社会
②分断され、「部族」化する社会のあり方
③大統領選挙・ブリグジットに見られるデジタル戦略による市民の誘導
④持てる者と持たざる者の格差の広がり
⑤ハイテク大企業のプラットフォームの独占
⑥ブロックチェーン技術がもたらす政府等の権威の破壊
…ざくっとこんな感じですかね、
割りと知ってることが多いと言えば多いんですが、こういう風に整理すると、確かに結構厳しい状況が見えてきます。
(⑥なんかは、どっちかというと「中央集権的管理からの脱却」という観点でポジティブに捉えてたんですが、「言われてみれば」という思いもありました)
ベースにあるのはデジタル革命のスピード感と、民主主義という政治手法のアナログ的なスピード感のアンマッチ。要はデジタル革命に政治がついていけてないんですな。
「それじゃあ、民主主義を捨てるのか?」
…と言われると、僕自身も「う~ん…」です。
その現状は踏まえつつも、デジタル革命のスピード感にマッチするように「民主主義」をアップデートして行くべき。
作者とはこの点では合意できます。
もっとも挙げられてる「20のアイデア」については、「それはどうよ」ってのも少なくないですけどね。
個人としての意見を持つ、集中力を維持する、新たなデジタル倫理の確立*、内なる反響室を粉砕せよ(部族に閉じこもるな)、クリティカルシンキング、アルゴリズムへの査察*、広告モデルから抜け出す、選挙関連法の改正*、選挙の祭典*、botの撲滅*、労働者の権利の保障*、ネット上の公正取引、独占禁止への決意、安全な人工知能、透明なリバイアサン*、ビッドコインの規制*、未来の政府(デジタルを積極活用し、官僚制のコストを引き下げる)*
僕が賛同したのは「*」。
「個人としての意見を持つ」とかってのは、信条としては賛成ですが、相手に期待しても…ってのもありますから。
ちなみに本書のポイントはこの記事によくまとまってます。
動画も良いと思います。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/100500021/092500022/?n_cid=nbpnbo_nb_fb
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/100500021/100100023/?n_cid=nbpnbo_nb_fb&ST=smart
デジタルテクノロジーの危険性は、ある意味認識されつつある状況だと思っています。
本書なんかもその流れの一冊。
一連の騒動の中でFacebookなんかも方針転換をしつつありますしね(まあ、ゴタゴタしてもいますがw)
そういう意味では「変化」の兆しはある。
…というのが懐疑的楽観主義者の僕の読後感でもありますw。
すごく興味深い作品でしたよ。