鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

文章でコンテンポラリーバレエを描く挑戦:読書録「spring」

・spring
著者:恩田陸
出版:筑摩書房

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「蜜蜂と遠雷」でピアノ演奏の高みを文章で描いた作者が、バレエ、しかもコンテンポラリーを中心に描いた意欲作品。
クラシックならまだしも、コンテンポラリーの創作バレエを文章でどう表現すれば…ってところを力技で押し切ってる一作ですw。
日曜日の午後、一人(と一匹)で留守番する時間があって、午後いっぱいで読み上げてしまいました。
面白かったです。


構成としては4パートに分かれていて、それぞれのパートを違う人物が語る構成。
最初の「跳ねる」で、主人公(萬春)の同期がバレエダンサー・振付師としての天才性・特異性を語り、
次の「芽吹く」で主人公の伯父が主人公の幼少期からバレエ留学するまでを振り返ります。
「湧き出す」では主人公と協力して創作バレエを作る幼馴染の音楽家の視点から主人公の創作の過程が説明されて、
最後の「春になる」で主人公自身が自分を語る。
…という流れ。


この手の作品だったら、主人公が成り上がっていく過程を順番に追いかけたり、コンクールを取り上げて、そこに主人公の天才性を集約させたり…って仕立てにしそうなものですが(後者は「蜜蜂と遠雷」でやってますw)、時間軸を緩くしながら、「語り」によって主人公や彼が目指すバレエの<カタチ>を浮き立たせる流れになっています。
一気に読んじゃったんだから、その仕掛けにまんまと僕は乗っちゃったわけですがw。

 

個人的な趣味を言えば、四章の語りが主人公自身になってるのは、最初ちょっと違和感もありました。
なんていうのかな〜、少し「生(なま)」な感じがしてw。
こういうのをアカラサマにするのはどうかな〜、個人的には<天才>はもっと隔絶した存在に描いてくれた方がハマりやすいんだけど〜
…まあ、作者がこっちに舵を切ったのも分かるんですけどね。
結局は僕も入り込んじゃったし。


さてさて、本作も映像化されるかしらん?
創作バレエを文章で読む側に迫るインパクトで描いてくれてますが、これを「映像」にするのは、それはまた別の話だろうしな〜。
むしろそこら辺は「漫画」の方が向いているかも。(バレエと漫画は相性いいし)
今、「蜜蜂と遠雷」は皇まことさんが漫画化してるけど(個人的には「傑作」と思ってます)、あっちの連載が終了したら続いてこちらも…とは行かないかな?
映画とかドラマには、う〜ん、ちょっとうまくいくような気がしない。


…って、別に漫画化とか映像化とかしなくていいんですけどねw。
ただそういうトコを刺激する<勁さ>みたいなものは確かにあるな〜って感想です。
かつて「アラベスク」や「SWAN」を楽しんだ方なら一読をおすすめいたします。