鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

功罪半ばする…けど、日本じゃ嫌われすぎてる気もするかな:読書録「テクノ・リバタリアン」

・テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想
著者:橘玲
出版:文春新書(Kindle版)

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世界を変える<唯一の>思想
…なのかどうかは分かりませんが、「世界を変える」ことに強い意志を持った考え方だとは思います。
ま、見方を変えるとそれ以外の思想が「保守的」「既存権益確保的」になってる…ってことかもしれませんがw。(日本のリベラルとかねぇ)


<リバタリアンは「自由原理主義者」のことで、道徳的・政治的価値のなかで自由を最も重要だと考える。そのなかできわめて高い論理・数学的知能を持つのがテクノ・リバタリアン>

 

この「高い論理的・数学的知能」を持つ者は「TEN」とも言われているようです。

 

<数学者のデイヴィッド・サンプターは、「成功、幸福、富などを与えてくれる 10の数式(ベイズの定理もこのなかに含まれる)」を知る者たちを「 TEN」と呼び、その暗号を解き秘密の数式を自在に操ることで世界を支配しているという。

 

その集団、いうなれば秘密結社は、実は何世紀も前から存在する。その秘密結社のメンバーたちは、代々自分たちの知識を後世に伝えてきた。そんな彼らは行政、金融、学界、そして最近ではテクノロジー企業の世界で実権を握り、一般人に紛れて過ごしつつも、私たちにこっそりと力強い助言を送り、時には私たちを陰で操ってさえいる。一般の人々が心から手に入れたいと望む秘密を見つけ出し、裕福で、満ち足りた、自信満々な人生を送っている。  

 

TENはデータを数学的にモデル化し、パターンを見つけてシグナル(必要な情報)とノイズ(不要なゴミ)を見分ける特殊な能力をもっている。だがこれは、世界の真実を知っているということではない。重要なのは、平均よりも精度の高い(現実をうまく説明する)モデルをもっていることだ。>


本書では「テクノ・リバタリアン」の第一世代であるイーロン・マスク、ピーター・ティール、第二世代のサム・アルトマン、ヴィタリック・ブテリン(イーサリム考案者)等を取り上げて、彼らが何者で、何を考え、何をしようとしているのか、その先にどういう社会が実現する可能性があるのか…についてまとめられています。
ガッツリ文系で、TENとは程遠い数学的素養しかない僕には理解が追いつかないところが山ほどありましたが、まあ、漠然とは概要が見えたような…気がするってところでしょうか。
第一世代のマスクやティールに関しては色々なことが言われているし、その行動や考えなんかも結構見えているので、それほど目新しさは感じませんでしたが、第二世代の方はせいぜいcharGPTがらみでアルトマンを知ってるくらいだったので、「なるほどな〜」と新鮮な気持ちになりました。
ま、ここら辺は「on the way」のところも少なからず…ですしね。(詐欺罪で逮捕された人なんかもいるしw)


かなり話が幅広くとられているので、頭の中でまとめるのが難しいところもあるんですが、個人的に興味深かったのは、「テクノ・リバタリアン」が目指す<総統府功利主義>って考え方のあたりかな。
まあ、民衆を信じない…ってあたりは「哲人政治」に近いかもしれないんですが、その「哲人」が<人>ではなくて<テクノロジー>になるあたりが特徴的かしらん。
「民主主義」を掲げるリベラルが、それを標榜する<人>の<善意>による暴走を孕んでいることを考えると、僕は否定しきれないところがあるんですけどね、ここら辺。
(「地獄への道は善意によって敷き詰められている」…とまで言わなくても、今のキャンセルカルチャーの横暴さとか、優生学を支えていたのがリベラル思想とか、いろいろあります)


第二世代のグレン・ワイルが掲げる「共同所有自己申告税COST」とか、「平方根による投票システム」(クアドラティック投票=QV)なんかは、「テクノロジー」によって社会を変える方策に一つ。
面白いのは、その根本思想が結構最近のリベラルが主張する「コモン」の考え方に通じるところがあるように思えるところがあるところで、正直「コモン」思想が、
「話はわかるんだけど、どうやってそれを実現するの?」
ってところで足踏みしちゃうのに比べると、この考え方は実際的で実務的。
もちろん「政治的にどうよ」ってのはあるんだけど、「教育が〜」とか言っちゃって思考停止するよりは遥かにマシだと、僕なんかは思っちゃうんですよね。
まあ、そう思うところに既にある種の傾斜があるのかもしれないけど。


実務やビジネスの世界において「テクノ・リバタリアン」「TEN」が大きな成果を出してるのは否定できないでしょう。
(一方で個人としての彼らが<幸せか>というと、それはそれで悩ましいところはありそうですが)
そこから一歩踏み込んで「社会変革」まで行けるかどうか。
トランプ支持を表明してたピーター・ティールも今年の大統領選では一歩引いてるようです。
Z世代の支持なんかも含めて、ここら辺がどうなっていくのか…ってのは興味深いとk露尾なんじゃないかと思います。

日本じゃ政治資金のことでゴタゴタしてるあたり、ため息しか出ないんですけど。