・イスラエル 人類史上最もやっかいな問題
著者:ダニエル・スカッチ 訳:鬼澤忍
出版:NHK出版(Kindle版)
昨年10月にはじまったハマスとイスラエルの戦闘には未だに出口が見えません。
ハマスからの侵攻(音楽祭襲撃等)に端を発した戦いは、イスラエルのガザ侵攻に切り替わり、現在イスラエルによる民間人被害が先進諸国では虐殺として非難されるようになっています。
確かに民間人被害は目を覆うほどだが、そもそもはハマスの民間人襲撃が発端であり、いやそれはイスラエルによる入植地拡大にそもそもの原因が、だが和平への動きを阻害しているのは双方のテロが、欧米のユダヤ人迫害がイスラエル建国の…
とまあ、どこに重点を置いて論じればいいのか、なんともこの問題は難しいところがあります。
しかし「知らない」ことに生半可な知識で口を出すのもどうかと思うので、自分自身の頭の整理として読んでみよう…とチョイスしたのが本作。
アメリカ在住のイスラエル人が書いた作品(21年)ですが、複数の人が「中立的」とお勧めしてタノで、読んでみました。
…読んでみたら、なおさら頭抱えたくなってますけどw。
イスラエル・パレスチナ問題の基本的なところは、本書で紹介されている11歳の少年の<解説>がほぼほぼ本質を語っています。
<「オッケー。ちょっと整理させて。つまり、こういうことかな。僕は生まれたときから、自分の土地にある自分の家で暮らしてきた。両親も、おじいさんおばあさんも、ひいおじいさんおばあさんも、ひいひいおじいさんおばあさんもみんなここで暮らし、僕と同じように土地を耕してきた。いつも誰かに家賃を払っていたけど、ずっとここで暮らしていた。ある日、畑に出て、夕方家に帰ってみると、この人(ここで彼は隣に座っていた子を指さした)とその家族が僕の家の半分で暮らしている。僕が『おい、僕の家で何をしてるんだい?』と言うと、彼は『僕たちはここから遠く離れた町を追い出されたんだ。近所の人は殺され、僕たちの家も焼かれた。ほかに行くところはないし、受け入れてくれるところもない。だからここに来たんだ。ひいおじいさんおばあさんの、ひいおじいさんおばあさんの、そのまたひいおじいさんおばあさんが、はるか昔に暮らしていた場所にね』──というわけで、どちらも正しいが、どちらもほかに行くところがない。こんな感じでいい?」>
どちらも正しいが、どちらもほかに行くところがない。
「正しさ」がない以上、落としどころを探さなくちゃいけない。
結局のところ、「オスロ合意」に至ったラビン(イスラエル)とアラファト(PLO)がたどり着いたのはそこだったんでしょうね。
そこから自分の有利になるようにどう言う交渉をしていくか…という局面に、「自分たちは絶対的に正しいんだ」と言う宗教的狂信を持った人々が乱入し/あるいは踊らされ、それが「ラビンの暗殺」につながり、オスロ合意の破綻を呼び、テロの応酬に至っている。
…そんな感じ?
「オスロ合意」以降の流れは、ほんと頭を抱えたくなります。
イスラエル問題はもちろんその地域における限定的な課題なんですが、一歩引いてみると、この「合意」が「正義」によって破綻される過程には決して「他人事」と思えないところがあります。
日本にだってそこそこに伺える話。
それもまあ、頭抱えたく…
「イスラエル問題を考える上において基礎知識を得るために読んだ方がいい」
ってのは、確かにその通りです。
イスラエル内部も一枚岩じゃないことがわかりますし、イスラエルとアメリカのイスラエル人たちとの関係、アメリカのイスラエル支持層の分断…なんてあたりは全然知らないことでしたし。
まあ、パレスチナサイドの視点(PLOからファタハ/ハマスへの流れとか)も知りたいなとは思わなくもないけど、そっちは多分、もっと頭抱える話なんだろ〜な〜、とも。
ただその「基礎知識」を得るために、そこそこ分量のある本を一冊読まなきゃいけないってこと自体、ハードルでもあるかと。
結局のところ、僕としては「イスラエル/パレスチナ」の二国主義をベースにしながら、その<合意>の成立を支持しつつ、個別に発生する事案には個別に判断するしかない…ってところかな。
ハマスの人質作戦は是認しない
イスラエルの民間人攻撃も非難する
双方の因果関係を評価の基準としては採用しない。
…くらいのスタンス。
当事者たちにとっては「緩い」なんでしょうけど、個別の事象に「正しさ」は持ち込めても、どちらかに「正しさ」を認めることは、やっぱりできない。
どちらも正しいが、どちらもほかに行くところがない。
本当に「やっかいな問題」です。