鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

そこまで「日本」的あり方に期待して良いものか?:読書録「増補版 なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」

・増補版 なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか? 日本人が知らない本当の世界経済の授業
著者:松村嘉浩
出版:ダイヤモンド社

増補版 なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?―――日本人が知らない本当の世界経済の授業

増補版 なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?―――日本人が知らない本当の世界経済の授業


「ケインズかハイエクか」で過去から現在に至るまでの「経済論争」を追いかけたので、「今」から「未来」をどう考えるか…について読んでみたくなってDLした作品。
ちょうどネット記事で作者のインタビューを目にしたんですよね。


内容については、作者自身があとがきでまとめてくれています。


<成長しないとつじつまが合わない中、成長しない世界に逆らい無理な成長を求めて、ついにはマネタイゼーションに向かおうとしている。これは極めて危険なことで、国家の破たんを招くかもしれないゆゆしき事態である。我々は、この事実を真摯に受け止め対応すべきである。日本人の民度と英知が試されているといってよいだろう。>


本人が書いてるんだから、まあその通りですw。
作者自身はトレーディングの現場に身を置いてきた経験から、現在の世界の経済政策の主流の金融政策(アベノミクスもその一つ)に対して危機感を持っており、そのスタンスから本書を書いています。


その論拠として説明される「近代世界システム論」に基づく歴史(過去から現代)の「解説」はなかなか面白いし、僕自身の考え方にも重なるところは多いです。ま、西洋中心史観の「綻び」のようなものは色々なところで窺えるようになって来てますからね。こういう見方が出て来るのは「あり得べし」って感じです。


金融政策のあり方については、確かにリスクは感じますし、「上手く行っていない」感もある一方で、ここまで主流となっている経済政策の学説を否定するのはどうなんだろう、って気もします。
僕自身も「アベノミクス」については懸念を持っていますが、その第一は「規制緩和を大胆に行うことで新しい産業を産み出す視点がなさ過ぎる」という点。金融政策はその「時間」を買う政策であると考えていて、「金融緩和すればそれで全てが上手く行く」というふうには思っていません。
ただ「成長しない経済」に移行すべきってのはどうかなぁ?個人的にはまだ「成長」はできるんじゃないかと思ってるんですが(ただそれは「GDP」ではなく、「一人当たりGDP」で測るべきとは思っています。ここら辺はもしかしたら作者の主張と大きく異なってないかもしれませんね)。


一番違和感があるのは「成長しない経済=定常経済」において、「日本人は牽引する存在となり得る」と言う点。
先進国の中でも先行してそういう時代に踏み込んでるってのは確かでしょう。(少子高齢化&人口減少)
しかし「日本人にはそれをなしえる特別な存在」といった考え方はどうかなぁ、と。その一例として「江戸時代」のことを挙げてたりするんですが、階層の固定化なんかを考えると、ちょっと賛成できません。
太平洋戦争の意味づけについても同様。西洋に対する異議申し立てといった側面は確かにあったでしょうが、それだけじゃないでしょう。それにしては杜撰な戦争であり、植民地政策だったと思います。
ここは余りにも簡略化されているし、都合の良い見方になってるように思います。


成績の悪い女子大生(笑)への個別講義というスタイルで、漫画やらJ-POPなんかも引き合いに出しながら話が展開するので、実に読みやすいのは確か。
今の世界経済の「危うさ」や、「格差」から生まれる社会情勢の不安定化(ISISも含め)なんかについても分かりやすく論じられていて、なかなか面白い視点の作品だとは思います。
それだけにチョット「日本万歳」のりが残念かなぁ、と。その線で「おじいさん・おばあさん」(高齢者を中心とした既得権益者)を納得させるのは、無理じゃないかと思うもので。