・騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編、第2部 遷ろうメタファー編
著者:村上春樹、ナレーター:高橋一生
出版:新潮文庫(audible版)
この作品は出版された時に読んで以来、初の再読。
(audibleなんで、正確には再<読>じゃないけどw)
最初に読んだ時も「ねじまき鳥クロニクル」との共通性を意識させられましたが、最近「ねじまき鳥」をaudibleで聴いたばかりだったので、よりそのことを強く感じました。
村上さん自身は過去に描いた作品のことはすぐに忘れちゃうらしいので、この作品を「ねじまき鳥」の<書き直し>とは全く思ってないでしょうけど、「街とその不確かな壁」と同じくらい<書き直し>的な印象の強い作品じゃないかなと、改めて思いました。
「ねじまき鳥」を強く思い出させる要素としてはこんな感じ。
妻の不倫と彼女から切り出された別れ
井戸/穴
性的関係を持つ女性
一風変わった少女
「悪」を体現する男
歴史の暗部を記憶に抱えてしまった男
マジックリアリズムとの境界の揺らぎ
壁を抜けて帰ってくる
妻を再び手に入れる(その可能性)
作品的に重要だけど、「ねじまき鳥」を直接連想しない要素としてはこういうのがあります。(僕が読み飛ばしちゃっただけで、実は「ねじまき鳥」にも出てくるのかもしれないけどw)
完璧さと闇を抱えた人好きのする男
妹
娘
「完璧さと闇を抱えた人好きのする男」ってのは本作では「免色」なんですが、これって「ダンス・ダンス・ダンス」の「五反田」を思い出させる人物でもあります。
最初に読んだ時も強く意識しました。
いや、五反田くんも免色さんも、僕は結構好きなんですよw。
もっとも物語的な<核>の部分はかなり違うかも。
一番は「ねじまき鳥」以降、村上作品のテーマ的な低音となって響いていた「絶対悪との対決」という要素が薄れているところでしょうか。
ザク〜ッとまとめてしまうと「ねじまき鳥クロニクル」は、
「闇に堕ちた妻を救い出す物語」
だったんですが、本作はそこまでヒロイックな構図になりません。
「イケメンに致命的に弱い」という妻(ユズ)の「宿痾」は、「ねじまき鳥」で一族の血の束縛から<悪>に汚される妻の抱えているものとは随分と深みが違うように思います。
「絶対悪」という<外部的>な存在は、この作品では<外にあるもの>ではなく、それぞれの登場人物の中にあるものであり、物語を通じて主人公が再び手にすることになる<芸術>的な情熱のようなものも、ある意味では<善>ではあるけれど、<悪>を呼び込む側面があるような印象が僕にはあります。
それを取り戻すことで主人公は<ユズ>を取り戻すことができたのかもしれませんが、そのキッカケには暴力的なイメージもありますからね(主人公も自覚的ではあります)。
でもこの「ヒロイック性」を抑えたこと、<外部>に原因を委ねきらなかったことが、作品としては<深み>を増しているようにも感じられました。
ちょっと気になったこと。
主人公は<ユズ>との生活を再び始めるわけですが、その描写はあまり多くありません。
そこで語られるのは娘<室>との関係性がメインとなります。
これは何なんだろうな〜と。
あれほど傷つき、こだわった相手なんだから、エピローグは3人の生活を描いてくれても良かったんじゃないかなぁ。
ちなみに本作で僕が一番好きなのは、主人公が妻と別れた後に小田原で関係を持つ「少し年上の人妻」です。
「ねじまき鳥」だと<加納クレタ>あたりと重なるのかな?
でもクレタに比べると、彼女はすごく明るくて、現実的な考え方を持っていて、ポジティブなスタンスを持っています。
主人公と彼女の性的なシーンは多いんですが、全然いやらしくなくて、スポーティな印象がするくらいw。
「現実的な」彼女は「現実的な」理由で主人公と別れを告げるんだけど、そしてそれはもう現実的でどうしようもないんだけど、僕はちょっと寂しくなりました。
「都合のいい女」といえば、それはまあ全くその通りなんですけどね。
(そういえば彼女の前に主人公が不倫した人妻にはどういう役割があったんだろう?)
まあ、いいや。
何にせよ、audibleでの<再読>で僕はこの作品を楽しみましたし、聴き終えたときには、最初に読んだ時よりもズッとこの作品が好きになっていました。
ナレーターの「高橋一生」さんも良かったですし。
村上作品て、文体のリズムやテンポがいいから、オーディオブックに向いてるかもしれませんね。
次は何を「聴こう」かな?
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