・テクノロジー思考 技術の価値を理解するための「現代の教養」
著者:蛯原健
出版:ダイヤモンド社
いや、本当に読むべきは小泉進次郎氏かな?
「ポリテック」に賛同しながら、結局大きな思想につなげずにいる(本書に沿っていえば、「具体」ばかりを追っかけてて、「抽象」がない)ようですから。
彼のような若い政治家こそが身につけるべき思考だと思います。
作者はシンガポールを拠点とするベンチャーキャピタリスト。
本書が初書籍となるようです。
思い出したのは梅田望夫さんの「ウェブ進化論」。
2006年に出版された本書は、スマホ登場前(iPhoneの登場は2007年)のインターネットの可能性について、分かりやすくポジティブな視座を与えてくれました。
希望を持ってポジティブにネット文化を捉えていた梅田さんは、その後のネットの状況に絶望して、現在はあまり発言をされておられないようですが、フェイクと分断と格差と寡占と差別に翻弄されるネットの現状を踏まえて記された本書は、ある意味、現在の「ウェブ進化論」ではないか、と。
個人的にはそう感じるくらいです。
もっとも一般向けに書かれ、敷居の低かった「ウェブ進化論」に比べて、本書はやや「事前知識」を必要とする作品かもしれません。(別に専門書じゃないんですけどね)
と言うか、そうならざるを得ないのが、今の社会状況とも言えるかもしれません。
多くの人にネットの可能性をポジティブに語ることは、ものすごく難しくなってしまった。
分かる人、問題意識のある人に、分析と評価、そして方向性を語り、<現実を変える可能性>を共有する…それが精一杯なのかもな、と。
テクノロジーの決定的な重要性
巨大IT企業が寡占するテクノロジービジネスの現状(上場/非上場の融合時代)
都市化(アーバナイゼーション)と、フロンティアとしての「地方革命」
欧州を中心に起きている「データ十字軍」の意味
「インド人」と言う<人種>が持つインパクト
「中国」のテクノロジーから見た歴史と、現状と、今後の可能性
米中テクノロジー冷戦の意味(「中国」のインパクトと、不安)
…幅広い内容を押さえつつ、消して浅くない。
僕自身はここまでテクノロジーファーストで考えることには抵抗もあるのですが、「ある視座」としては納得できるものがあるし、こういう見方をする方が、今の日本にとっては可能性を開くことができるのかな、とかとも思ったりしました。
「印鑑とITの融合」とか言う大臣がいたり、「ペーパレス」をポリテックの成果として掲げたりするよりはねw。
万人に「おススメ」という本じゃないかもしれません。
でも「今」を切り取る作品として、評価できる本だと、僕は思いましたよ。
残念ながら「ウェブ進化論」で語られたような明るくてオープンでポジティブなネット文化を作ることは僕たちはできなかった。
でもそこに「社会を劇的に変革する<なにか>」があるのは確か。
「未来を作る」ために、そのツールをどう使えばいいのか?
本書が語っているのは、そのための「思想」だと思います。