鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

まだ日本はここまで極端なことになってはいないと思いたいけど:読書録「『傷つきました』戦争 超過激世代のデスロード」

・「傷つきました」戦争 超過激世代のデスロード

著者:カロリーヌ・フレスト 訳:堀茂樹

出版:中央公論新社(Kindle版)

f:id:aso4045:20230428080602p:image


岩田健太郎さんがFBで紹介されてたのを見かけて購入した作品。

「アイデンティティ至上主義」や「犠牲者至上主義」に対する強い危惧と批判を展開した作品です。

アイデンティティ至上主義・犠牲者至上主義

まあ、「マイノリティ」の立場や、「社会的不利益を被っている立場」を、その<立場>のみを根拠として一番価値があるとみなして、その主張に反対するもの、疑義を投げかけるもの、普遍主義とのすり合わせを主張するもの等を、「問答無用」で切り捨てるスタンス…とでも言いましょうか。

その姿勢には暴力的・排他的な要素が色濃くあります。

「キャンセルカルチャー」や「文化盗用指摘」なんかが武器としてはよく使われています。

 


…なんてことを言うと、

「おお、保守派の主張か」

と思っちゃいそうですが、作者は同性愛者で戦闘的フェミニストであり、年季の入った左派の方。

 


<「アイデンティティ政治」や「ポリティカル・コレクトネス」に対する、建設的な批判が保守陣営から出てくることはないだろう。保守陣営がマイノリティの専制政治を告発するのは、特権者たちの支配を復活させるためでしかない。多文化主義のさまざまな短所を指摘するのも、単一文化主義に戻るためでしかない。「ポリティカル・コレクトネス」を嘆くのも、好き勝手に言葉を投げつけることができるようにするためである。>

 


…とまあ、「保守陣営」への期待は微塵もありませんw。

彼女が懸念するのはアイデンティティ至上主義を掲げる過激な左派の主張が、結局のところ過激な右派を利することにしかならないと言う点にあります。

 


<大学の外の一般社会の世論においては、ポストモダン左翼はいまや急速に人気を失っている。その発言の一つひとつが、それに反発する極右の声を強く大きくする以外の役割を果たしていないからだ。>

 


う〜ん、ここら辺はちょっと日本のツイフェミ界隈を思わせるところもなきにしもあらず。

過激な言動で「味方」を減らし、「アンチ」を増やしてどうすんねん…という。

 


作者が懸念するのは世論では力を失いつつあるポストモダン左翼が「大学」では力を持っており、それが次世代の感覚を狂わせているのではないかってところにあります。

ここら辺、米国や欧州の大学での状況が紹介されてるんですが、これは確かにちょっとすごい。

「エバーグリーン州大学」の話なんか、もう無茶苦茶…というか、なんか安保闘争時代の日本の大学を思い出しちゃいました。(教師やら外部講師やらを吊し上げまくってます)

「若さ」ってのはこういう過激なところに突っ込んじゃうところがあるのかもな〜とも思うんですが、知的な側面ではほとんど得るものもないよなこれは、とも思います。

ここら辺のことが知られてきて、ポストモダン左翼の社会的な評価が揺らいできてるってのはあるかも。

SNSは広げるのも早いけど、水をかけるのも早い…と申しますか。

良くも悪くも日本の大学については、今のところこう言うところまでは行ってないかなとは思います。

ただ過激な言動は「若さ」にとっては魅力でもあるからねぇ。

安心し切ってていいかどうかは、なんとも…。

大丈夫だよね、息子よ。

 


「リベラル」寄りの人からの「リベラル批判」(急進左派批判)を最近よく目にしますが、共通するのは「中庸」を主張する点。

本書で言えば「普遍主義」かな(単なる「中庸」じゃないのは作者の経歴からもわかるけどw)。

僕もそこには賛成なんだけど、なかなか難しいのも確か。

しかし「現実」に着地するにはそれしかないんだけどな〜とも思うんですけどね。

 


<レイシズム、反ユダヤ主義、セクシズム、ホモフォビアなどに対する闘争は二義的ではなく、「ブルジョア的な」戦闘でもない。差別は実際に、人びとを殺し、破壊し、堕落させる。この毒性を武装させている偏見に、私たちは挑み続けなければならない。しかし、そのためには賢明な方法をとる必要があり、人びとを説得し、障碍を取り払い、ステレオタイプを解体し、民族という枠の鎖を断ち切り、役割やジェンダーの分配を見直すといったリアルな目標に邁進しなければならない。流動的なアイデンティティ、自由なセクシャリティ、トランスカルチャー主義、混血の社会を夢見つつ――。これの正反対が、アイデンティティ至上主義的左派の世界である。彼らは人びとをもともとの枠に閉じ込める紛争や、犠牲者至上主義的競争や、終わりのないさまざまな対立にふけっている。  

傷つけたとか傷つけられたとかいったことばかりの世界で、私たちは息が詰まっている。そろそろ深呼吸し、自由を損なわずに平等を擁護することを学び直そう。>

 

 

 

#読書感想文

#傷つきました戦争

#超過激世代のデスロード