鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

84歳で書いた小説とは。:読書録「書架の探偵」

・書架の探偵
著者:ジーン・ウルフ 訳:酒井昭伸
出版:早川書房

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)


作者はSFファンタジーの「巨匠」らしいんですが、不勉強にして、僕は読んだことありません。
…にもかかわらず、本書を手に取ったのは、「題名」と「表紙」に惹かれたから。個人的に「近未来社会」の描写に興味を持ってるタイミングってのもありますかね。


時代は22世紀。
人類の総人口は10億人までに減り、格差社会にもなっているようです。
そんな中、図書館では、「死んだ作家の記憶」を作家のクローン(複生体・リクローンと称されています)に移植し、「蔵書」として保管し、貸し出されたりするようになっています(「蔵者」)。
「なんでそんな面倒なことを」
と思うんですが、特に説得力のある説明はなしw。
「人間をかぎりなく本に近づけたらどうなるか」というのがソモソモの発想らしいので(解説)、そこら辺はスルーなんですなw。


でもその設定ゆえの面白さは確かにあって、主人公が、詩人である元・妻のリクローンと何回か「再会」するシーン(それぞれが別のリクローン)は結構興味深く仕上がっています。
主人公と同じ作家の別のリクローンと鉢合わせる…なんてのもあってもよかったかな、と思ったくらい。


一方で、ディックなんかだったら踏み込む、人間とリクローンとの「格差」の曖昧さから生じる、
「人間とは何か?」
みたいな哲学展開はほとんどなくてw、ストーリーとしては割とストレートなSFミステリになってます。
ネタがストレートな割には、話があっちゃこっちゃ行く感じもありますが、そこら編はSF的な仕立てを見せたかったためでしょうね。
本書執筆時点で作者は「84歳」(!)だったそうですが、バリエーションに富んだ「未来社会」の構築には感心させられました。
ま、もうちょっと踏み込んで欲しかったような気がせんでもないですがね。


作者は「続編」の構想も持っているとか。
割とハードボイルドタッチな雰囲気が気に入ってるので、読んでみたい気もしますが、さて実現するでしょうか。
年齢的に…。