鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

あり得たかもしれないシーン、ある得るかもしれないシーン:映画評「BLUE GIANT」

アニメ化の報道が出た時、

「おお〜」

と思ったものの、一方で一抹の危惧も…。

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しかしそれは「危惧」に終わりました。

音楽アニメとして、観たことのないものを観せて、聞かせてくれたなぁ、と。

「The First SLAM DUNK」も何かを突き抜けたところがありましたが、本作も同じように新しい次元に連れて行ってくれた感じがあります。

 


ストーリーは原作の「東京編」をベースにしてて、ほぼそれをフォローした展開になります。(原作コミックのBONUS TRUCKも再現されてますw)

「成り上がり物語」としてそもそも原作がよく出来てましたからね。

もちろんエピソードの取捨選択や演出の仕方等が優れているから、作品としてのレベルが上がっているのは間違いありません。

 


ただ映画としての本作はそれ以上に「演奏シーン」の素晴らしさが突出しています。

上原ひとみの音楽と、彼女が率いる「JASS」の演奏が素晴らしいのが大前提なんですが、それをどういう「絵」にするのか。

モーションピクチュアを3CGにしたリアルなタッチ、斬新なカメラワーク、そこから抽象的な表現に落とし込んでいくアニメ表現の豊かさ。

いやはや「言葉」じゃ表現できない。

これはもう「見てくれ」としか。

そして「音」。

「SLAM DUNK」も「劇場で見なきゃ」って映画でしたが、本作は「JAZZ」がテーマだけになおさらです。

劇場の音量で、彼らの「音」を身体で感じないと…。

 


ストーリーとしてはラストに原作にはない大きな改変があります。

それは「あり得た」かもしれないシーン。

そして原作においては「あり得る」かもしれないシーンの<予感>でもあります。

 


エモーショナルだけど、もしかしたらコレは賛否が分かれるところかもしれません。

僕としては、原作が予想以上に長くなってるだけに、「あり」なんじゃないかとは思うんですが。

 


「続編」はある?

う〜ん、観てみたいけど、この座組みでやるのはちょっと難しいかもしれないなぁ。

その点を考えても、ラストは「あり」かな。

 

 

 

#映画感想文

#bluegiant

「事件」より、刑事たちの「人生」の行方の方が気になります:読書録「P分署捜査班 寒波」

・P分署捜査班 寒波

著者:マウリツィオ・ジョバンニ 訳:直良和美

出版:創元推理文庫(Kindle版)

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ナポリを舞台にした、エド・マクベイン「87分署」シリーズにオマージュを捧げる「P分署」(ピッツォファルコーネ署)シリーズ第3作。

今作では、「兄妹」が殺された二重殺人をメインに、家庭内虐待が疑われる案件が並行して取り上げられます。

 


捜査の過程は「警察もの」らしく、地道でコツコツと積み上げていく感じ。

そして最後の1ピースを主人公格のロヤコーノ警部の「推理」が埋める…といパターンです。

「本格推理」じゃないけど、「足で稼ぐ」だけじゃない展開がエンタメとして「読ませる」内容になっています。

 


…なんですけど、3作目にもなると、「事件」そのものよりも、P分署の面々の「人生」の方が気になってきます。

捜査官として、欠陥を持ちながらも(それ故にP分署に「島流し」された)、数々の事件を解決していく中でそれぞれ優秀なところがあることが明らかになってくる一方で、その「私生活」においては、どこか「袋小路」に落ち込んでしまいそうな悩みを抱えている…。

 


ロヤコーノは過去の汚名の影のほか、2人の女性との恋愛模様に、ティーンの娘との関係

署長のパルマと、障がいのある子どもを育てるオッタヴィアとの「危うい」距離感

レズビアンのアレックスの恋愛関係と、父親の強い影響力から逃れるための足掻き

「自殺」を装った連続殺人を追いかけるピザネッリと、犯人であり友人でもある神父との行方

見栄っ張りで、女にだらしなく、向こう見ずなアラコーナの危うい言動

 


「事件」は解決しても、彼らの「人生」は解決しない。

この「物語」はどういう方向に転がっていくのか…

そちらがドンドン気になってきます。

 


気になってくるのに、翻訳のペースが…!

前作が21年5月発売。

本作が23年2月発売。

1年以上、開いてるやん!

シリーズはもう10巻まで描かれてるのに〜!

 


…と言うわけで、「満足」の読後感だけに、翻訳ペースの方にフラストレーションを溜めてしまう…という結果になっております。

もうちょい、なんとかなりませんかね。創元社さん。

 

 

 

#読書感想文

#P分署捜査班

#寒波

だらだらシリーズにしてもいいのに…:読書録「校閲ガール ア・ラ・モード」「校閲ガール トルネード」

・校閲ガール ア・ラ・モード

・校閲ガール トルネード

著者:宮木あや子 ナレーター:中嶋ヒロ

出版:角川文庫(audible版)

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面白いシリーズになりそうなので、ゆっくり読もう(聴こう)と思ってたんですが、ちょっと時間ができた時に2巻(ア・ラ・モード)の方を聴き始めたら、結局3巻まで…。

まあ、そんなに長くないですからねぇ。(通常倍速で6時間。2倍速だと3時間)

 


2巻の方は主人公(河野悦子)の周りにいる人たちを主人公に取り上げた短編集。上司のエリンギの話にチョイと泣かされました。

3巻は再び主人公の物語になって、作家兼モデルのアフロとの恋愛の行方、念願叶ってファッション誌編集に異動しての苦闘が前後編でそれぞれ描かれ、最後に「自分の居るべきトコロ」を見つけた悦子とアフロの「ほろ苦い」結末が描かれています。

 


1作目の「本音爆裂」モードは2巻・3巻と続くものの、それでスッキリお気楽モード…とはいかず、ちょっとした「苦味」が残るのが特徴かなぁ。

かといって深刻ドップリにはせずに、程よい塩梅ではあるものの、ここに至ると「シリーズ完結」とせざるを得ない…って展開です。

もっと割り切ってドンドン続けるシリーズにしてもいいのになぁ…とも思うんですが、ここら辺、作者の資質(矜持?)もあるのかしらん。

 


第1作目が出版されたのが2014年。

2作目15年、3作目16年なので、もう完結から6年が経過しています。

その間、出版業界はナカナカ大変なことになっていて、悦子が憧れるファッション誌も廃刊・休刊も珍しくなくて、厳しい環境。

そういう中で、登場人物たちがどう争ってるのか…ってのが見てみたくもあるんですが…無理かな?

そんなこと言ってられんとこまで来ちゃってる気もしますしねぇ。

 


#読書感想文

#校閲ガール

#校閲ガールアラモード

#校閲ガールトルネーそ

#宮木あや子

#audible

チャドウィック・ボーズマン、フォーエバー:映画評「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」

前作で「ブラックパンサー」を演じていたチャドウィック・ボーズマンの死去を受けて、計画されていた続編でもボーズマンが演じていた「ティ・チャラ(ブラックパンサー)」を病死させ、その喪失から周りの人間たちが立ち直る過程を映画化した作品。

かなり特殊なシチュエーションで作られた作品だと思うんですが、「コロナ禍」という世界的な悲劇の時代をバックボーンにして、観るものの共感を得ることができたんでしょうかね。

大ヒットしたようですから。

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本作で主人公となるのは、ティ・チャラの妹である「シュリ」。

科学者である彼女は、自分の力で兄を救えなかったことに憤りを感じており、その憤りは「敵」であるタイロン国王ネイモアの怒りに呼応し、ネイモアがティ・チャラとシュリの母ラモンダを殺したことによって、「復讐」の闇となって彼女を捕えます。

その「闇堕ち」によって彼女が「ブラックパンサー」となる展開は、本作をヒーロー映画としても特殊なものとしているかもしれません。

前作にもあったアフロフューチャーな世界観の新鮮さや、海洋帝国であるタイロン国の色彩、そしてMCUならではの派手なアクション…と、エンタメ映画としての見どころも十分にあるんですけどね。

 


個人的にはワカンダvsタイロンという対決に物語が収斂していくのはちょっと惜しい気もしました。

両国を対決に追い込んでいくのは西洋の大国のエゴであり、その「いやらしさ」こそが<敵>としては相応しいように感じたので。(ここら辺、マーティン・フリーマン演じるCIA職員のドラマの方で少し触れられてはいます)

まあここんとこはMCUの今後のシリーズで深掘りされるのかもしれません。(そういう傾向があるシリーズではありますしw)

 


物語が終わり、シュリが喪服を燃やす焚き火の中に見た在りし日のティ・チャラ=チャドウィック・ボーズマンの姿。

悲しくも鮮やかなその姿こそが本作の「全て」だったのだなぁ…と改めて思わされます。

それでええんかい?

…ええんやろな。

そういう映画です。

 


エンディングの「サプライズ」もあるし、ワカンダの<未来>の話はまだ続きそうです。

でもあの「ブラックパンサー」を超える存在を果たして見出すことができるのか?

その答えは本作にはありません。

 

 

 

#映画感想文

#ブラックパンサー

#ワカンダフォーエバー

 

「ビジネス・マナーとしてのフェミニズム」くらいの感覚で手に取ったんですが、思ってたよりよく整理されてました:読書録「世界一やさしいフェミニズム入門」

・世界一やさしいフェミニズム入門 早わかり200年史

著者:山口真由

出版:幻冬舎新書(Kindle版)

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「フェミニズム」については現代的イシューとして重要なことは理解しているものの、なかなか近寄りがたいのも事実。

作者も過去の経験から、<世間とフェミニズムの間の不幸な溝>を実感し、勉強のための書籍を探したのだけど、

 


<主観的ではなくそれなりに客観的に、一部のみ深く立ち入ると言うよりはそれなりに全体的に、この分野の地図をさし示してくれるような書籍にはなかなか出会えなかった。フェミニズムという布を構成する縦糸と横糸、つまりは歴史的な経緯と世界的な広がりを体系的に理解したいと思っても、それを端的にカバーしてくれる本が見当たらなかったのだ。>

 


で、<自分で書いて見ようと思ったのがこの本を書くきっかけだった。>

 


かなり苦労されたようですが、その目的は果たせてるかなと思います。

 

 

 

夫たちを専制君主になぞらえ、夫への従属を奴隷的な隷属として抵抗した<第一波フェミニズム>。

「個人的なことは政治的なことである」として、自分たちのやるせなさは個人に起因する問題でなく、社会に共有される問題が自分という個人に具現化されているのであり、そこに不公平な構造がある…と主張した<第二波フェミニズム>。

個人のエンパワメントを強調し、女性にはせっくすを拒否する権利があると同時に、周知を感じることなくセックスにイエスと言い、ポルノを鑑賞する権利もあると主張した<第三波フェミニズム>。

インターネットの波に乗り、#運動に代表されるTwitterなどのSNSメディアを通して、男性を排除せずに、当事者として包含する動きとなった<第四波フェミニズム>。

そして”#MeToo”運動の衝撃

 


…とまあ、お〜ざっぱな流れをフォローしつつ、ここの運動の歴史的な背景や具体的な主張・内容等を整理して説明してくれています。

「流れ」と言っても、順番に移り変わって来たってわけでもなく相互が影響しつつも、反発するところもあって、特に第二波の「ラディカル・フェミニズム」は第三波・第四波への批判的視座をも与え続けています。

#MeTooなんかは、第四波的な運動でありながらも、既存の社会権力構造へのインパクトという意味では第二波に繋がってる感じなんかもします。

 


(個人的には初期のフェミニズム運動の中で「WSPU」の運動なんかも興味深かったです。Netflixオリジナルの「エレノア・ホームズの事件簿」は史実を反映した物語になってるんですが、ホームズたちの母親のフェミニズム運動への取り組みがいかにも過激な感じがして、ちょっとリアリティーが・・・なんて思ってなんですが、あれはWSPUの中心人物「パンクハースト夫人」を模してるんですね。

彼女たちは自衛の手段として「柔術」を必須の訓練としてたそうです)

 


こうした欧米のフェミニズムの流れに加え、日本のフェミニズムの歴史にもふれ、その特徴性に触れている点も興味深いです。

与謝野晶子vs平塚らいてう、アグネス・チャンの子連れ出勤騒動、エコロジカル・フェミニズム論争等を通じて、「母性」というものが重視される日本社会/フェミニズムの指摘をしているあたり、なかなか面白い。

作者がいうほど欧米のフェミニズムが「母性」に対して対抗的とは思いませんが、日本のフェミニズムを考える時、一考に値するポイントと思います。

 


内容的には「世界一やさしい」かどうかはかなり「?」。

でも作者自身が「客観的」であろうとしている点は評価できるし、大きな流れを把握できるのはありがたいです。

何やら「フェミニズム」と言いながら、どうも意見が対立したり、おかしな方に行ったりしてるな…って感じることがありますが、その要因の一端には触れることができたようにも思いますし。

(社会を変えていくためには賛同者を広げていく必要があるのは当然。

その点が第三波・第四波の流れになる一方で、第二波の主張する「社会構造そのものの歪み」がその中で置き去りにされるのではないかという危惧もあって…

ってな中でのスタンスのズレとかですかね)

 


まあ、なかなか踏み込んでいくのは難しいところだと感じますし、個人としては「敬して近づかず」になっちゃってますがw、どういう背景があるかは知っておきたいし、子供たちの「未来」を考えると、自分自身の立ち位置も、自分で決めておく必要はある。

…ということで、そのベースとなる知識を得るには結構良い本と思います。

そっから先は人それぞれ…でしょうかね。

 

 

 

#読書感想文

#世界一やさしいフェミニズム入門

#山口真由

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやぁ、オモロかった:読書録「校閲ガール」

・校閲ガール

著者:宮木あや子 ナレーター:中嶋ヒロ

出版:角川文庫(audible版)

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「石原さとみ」主演でドラマ化されてましたね。

妻と娘が大好きで…なんですが、僕は観てません。

チョット苦手なんですよ。石原さとみ。

 


…なのに読んで(聴いて)みる気になったのは、たまたまaudibleの「おすすめ」にピックアップされてたから。

落語っぽい、聞き流せるようなのが聞きたいな〜、って気分でもあったので、DLしました。

 


ビンゴでしたねぇ。

金曜の帰りの電車から聞き始めたんですが、そこそこ乗客の乗ってる車両で、思わず声を出して笑いそうになっちゃいました。

ドラマがどうかは知りませんが、audible向けなのは確か。

「校閲」なのに、文章見なくても、聞くだけで楽しめるってのは、エンタメとして作者が腕を見せてるってことだと思います。

 


ファッション雑誌の編集者になりたくて出版社に入社したのに、「校閲」に配属されたヒロイン。

「完璧な仕事」をすることで「いずれ来るチャンス」を掴もうと狙いつつ、好きなファッションを極めつつ、仕事もキッチリこなしていく。

その彼女が、ふとしたキッカケでベテラン作家との縁ができ…

 


という話。

連作短編なんですが、第1話でできたベテラン作家の縁が最終話に繋がる形になっています。

 


読ませどころは何と言ってもヒロインの「本音爆裂」w。

営業でも編集でもないので、仕事さえキッチリしてれば「忖度」不要のポジション。

それを最大限に活かして(?)、言いたいこと言いまくる姿が爽快です。

それでいて「仕事はきっちり」ってあたりに、主人公の倫理観も垣間見得たりして、傍若無人な破天荒コメディ…にはならないんですよね。

基本的には「お仕事小説」だと思います。(軽い「ミステリ」ってとこもあるかな?)

 


シリーズは3部作らしくて、3作ともaudibleになってます。

う〜ん、また読まなきゃ(聴かなきゃ)いけないシリーズ、増やしちゃったなぁ。

面白いからいいんですけど。

 


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#校閲ガール

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楽しみなシリーズになりそうです。:読書録「木曜殺人クラブ 二度死んだ男」

・木曜殺人クラブ 二度死んだ男

著者:リチャード・オスマン 訳:羽田詩津子

出版:ハヤカワミステリ(Kindle版)

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リタイアした高齢者が住むビレッジ「クーパーズ・チェイス」に住む老人たちのクラブ<木曜殺人クラブ>の面々を主人公としたシリーズ第2作。

第1作はクリスティの「火曜クラブ」を連想させつつも、アームチェア・ディテクティブとは正反対の高齢者たちのアクティブな姿が描かれ、最終的には本格推理的な「謎解き」がされた…と思いますw。(あんまりストーリーを覚えてない。面白かった記憶だけはあるんですが…)

 


続編となる本作では、確かに<謎>はあるのですが、さらに老人たちはアクティブになり、マフィア、スパイ、ストリートギャングが交錯し、銃弾の飛び交う展開となります。

1作目では仄めかされていたクラブメンバーの1人エリザベスが、元MI5の敏腕スパイだったことが早々に明かされますからねw。

 


物語の軸となる事件は二つ。

クラブメンバーの1人、元・精神科医のイブラハムがストリートギャングに暴行を受けた事件。

そしてエリザベスの元・夫(こちらは現役スパイ)が任務中にダイヤモンドを盗み出し、マフィアに命を狙われるのを護衛する…という案件。

1作目で仲良くなった警官コンビと連携してストリートギャングへの復讐を企み、結局殺されてしまった元・夫が隠したダイアモンドを探しての争奪戦に巻き込まれる(と言うより、飛び込んだ感じだけどw)ことになります。

エリザベスの元スパイとしての行動力とクールさが光りますが、「老人」たちの吹っ切れたユーモアと倫理観も物語の彩りとして楽しめます。

 


<コニー・ジョンソンはできるだけロンに近づき、歯ぎしりしながら言う。「あたしがシャバに出たら、あんたの命はないよ」  

ロンは彼女を振り返る。「ああ、おれは七十五なんだ。で、あんたは三十年ぐらいは食らうだろ。うん、了解だ」>

 


すでに続編も出版されており、翻訳も今年中には出る模様。

なんか「窓際のスパイ」その後…みたいな感じですがw、この路線、好きです。

楽しみなシリーズになりそうです。

 

 

 

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#木曜殺人クラブ

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