鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「清貧」を<ジジイの繰り言>から<若者の指針>とできるか:読書録「人新世の『資本論』」

・人新世の「資本論」

著者:斉藤幸平

出版:集英社新書

f:id:aso4045:20200928210839j:image


「脱成長」とか言われると、(作者自身が指摘するように)

「高度成長の恩恵だけをしっかり享受したくせに、<清貧>とか言って、貧乏を次世代に押し付けようとする老人たちの繰り言」

って感じがしなくもないんですがw、「気候変動」とか考えると、今のままの経済成長路線もどうかとも…。

ってなところから、マルクスに晩年期の思想(「資本論」(第1巻)の発表後)を補助線として、「ポスト資本主義」を考察した作品です。

作者は「1987年生まれ」。

こういう世代がこういう問題意識を持って声を上げるってのが「いいな」と。

どっちかっていうと、僕は「繰り言」世代に近いのでw。

 


僕なりの作者の問題意識をまとめると、こんな感じです。

 


・人類の活動は地球環境に不可逆的な影響を残すまでになっている(「人新世」という地質学的な定義はそのため))

・一方でグローバルな地域格差・国家格差・国民格差が広がっている

・環境への影響が破滅的にならないように、配分・再配分をする必要がある

・「資本主義」の枠組みではこの配分・再配分はうまくワークしない。新たな枠組みとしてマルクスの思想を借用し、「コミュニズム」を立ち上げる必要がある

 


無茶苦茶カンタンに整理してるんで、誤認・見落としは勘弁…ですがw。

 


その問題意識から提議される「脱成長コミュニズム」の柱は次の5つに整理されています。

 


①使用価値経済への転換

②労働時間の短縮

③画一的な分業の廃止

④生産過程の民主化

⑤エッセンシャル・ワークの重視

 


<コモン>の考え方とか、その一つとしての「協同組合」の評価とか、なかなか面白いなぁと思います。

実例として「バルセロナの市民会議」なんかの成果も引き合いに出して、決して「夢物語」ではないのだとコメントするあたりもいいですね。

<コモン>という考え方が地方自治の単位と馴染む(還元すれば、それ以上広げると無理が生じる)というのは確かだと思いますし、その「点」のグローバルな連帯っていうのは、「今っぽい」視点だと思います。

 


おっちゃん的に気になるのはこんなとこかな。

 


・「生産過程の民主化」は、熟議の民主主義にも通じる考え方だけど、(作者も認めるように)スピード感は落ちる。例えば「パンデミック対策」「巨大自然災害対応」なんかを想定すると、その「スピード感」こそが致命的になる可能性もある。

ここをどう考えるのか?

・<コモン>を管理する組織を「民主主義的管理・運営」に…というのは理念としては賛同するが、現場においては組織の運営に一定の官僚制度が必要となることは、組織の規模が大きくなれば不可欠(地方自治の規模でも)。

「官僚主義」の弊害をどう回避するのか?

・メンバーが完全に一致した意見で全て動くことはあり得ない。その中で生じる「同調圧力」あるいは「ポピュリズムによる扇動」「公共地のジレンマ」等を、どうやって現実的にコントロールしていくのか?

 


…なんか描いてると、「理想はわかるけど、現実はそうはいかんのよ」って<繰り言>っぽいなw。

僕としては「気にはなる」けど、それを踏まえながらも乗り越え、「理想」に向かって行動して欲しいってスタンスなんですが。

僕自身のスタンスは「技術の進展は現状の政治経済活動の不全を突破する可能性を持っている」というところです。

作者には強く批判されてますが。

 


ただまあ、「どういう路線に向かうべきか」は、少なくとも今の30代以下の世代で、究極的には選択すべきである、とも考えてます。

だってその先の「未来」を生きていくのは「彼ら」なんだから。

だからこういう「思想」が若い世代(僕が社会人になる前の年の生まれやもんw)から出てくるのは興味深い。

 


惜しむらくは、賛辞を寄せてるのがオッサンばっかり、ってとこかなw。(坂本龍一、白井聡、松岡正剛、水野和夫)

こういうオッちゃんには引き続き頑張って欲しい…気がしないでもない:読書録「恥ずかしい人たち」

・恥ずかしい人たち

著者:中川淳一郎

出版:新潮新書

f:id:aso4045:20200927145134j:image

 


「あれ?引退したんじゃなかったっけ?」

 


…「セミ・リタイア」で、ネットメディアの編集からは一切手を引いた…ってことのようです。

こういう物書き業の方はどうなんでしょうね?

なんか「ジジイの繰り言」みたいになっちゃうのが嫌で止めちゃう気もするし、どうせ副業みたいなもんなんだから…って続けるような気も…。

まあ、どっちでもいいですけどねw。

ただこういう視点を投げかける人ってのは引き続きいてほしいとは思ってます。

 


作者の最大の「功績」wは、

「ウェブはバカと暇人のもの」

と喝破したことでしょう。

その後、ワイドショーとの相乗効果でマスマスその傾向は強まり、エンタメとしては盛り上がりながらも、「所詮、バカと暇人のもの」ってことは定着してきてるんじゃないかと思ってたんですが、意外にそうでもない気配もあるとこが何だかな〜ってのが現状ですかね。

「コロナ禍」はその<何だかな〜>を強めちゃった感じもあります。(まあ、ワイドショーやネットを見る時間が増えちゃったですからね)

「バカと暇人のもの」と思って接してたら、それはそれで良いところも少なくないとは個人的には思ってるんですが。(いわゆる「可視化」が進むあたりとか、論議のスピード感が高まるとか)

 


本書にはここ3年くらいの「バカと暇人」の観察記録がまとまってるわけですが、

7割賛同、1割反発、2割ど〜でもい〜

ってとこでしょうか。

「1割反発」のあたりは「いてぇとこ突きやがって」ってのがなきにしもあらず。

ど〜でもい〜は、煎じ詰めたら全部そうかもしれんけどw。

休日にソファでゴロンと読むには良い本と思います。

 


「セミ・リタイア」を意識してか、本書には少し長めの「はじめに」と「おわりに」が収められています。

「バカ博覧会」とは違う作者の言葉が書かれています。

 


<周囲の本当に大切な人を徹底的に大事にしてください。そしてその人達が恥ずかしい行為をした場合でもなんとか取り繕ってあげ、自分が恥ずかしいことをした場合もその人達に泣きついて慰めてもらいましょう。

 


結局、人間にとって一番大事なのは「愛」なんですよね。>

 


ほんと、ねぇ。

「じゃあ、何してる会社なのか、分かった?」と訊かれると、「何となく…」:読書録「Learn or Die」

・Learn or Die 死ぬ気で学べ プリファードネットワークスの挑戦

著者:西川徹、岡野原大輔

出版:KADOKAWA

f:id:aso4045:20200926121653j:image


AI(人工知能)について日本を牽引するような企業「らしい」プリファードネットワーク(PFN)について、創業者2人が説明した本。

「人工知能って、ビジネス面では今どんな感じになってんのかなぁ」

と漠然と思ってるとこにネットで紹介されてるのを見て、購入しました。

 


基本的には深層学習(ディープラーニング)技術に優れていて、その研究を深めつつ、製品化を進めようとしている会社

…って感じでしょうかね。

今のところ「製品化」については協業がメインのようですが(ファナックとか、トヨタとか、製薬会社とか)、経営者としては「ロボット」と「AI(ディープランニング、強化学習)」の統合・進化を自社製品(パーソナルロボット)として視野に入れてて、その向こうにプロトコルの自動生成なんかも考えてる

…とか?

いや、実はシカとしたことは分かんないんですけどw。

 


まあでも読み終えての感想は、

「面白そうやなぁ」。

「ロボット」が、現在はインターネットの向こう側にあるAIを物理的な「こちら」の世界と繋ぐだろうってのは言われてることですが(その先端が自動運転)、製造機械やロボットアームなんかのセンサーの話とか、自動運転だけじゃない具体的な話のあたり、興味深かったです。

「パーソナルロボット」

生きてる間に使ってみたいなぁ、と。

 


創業者とPFNの簡単な年表はこんな感じ。

f:id:aso4045:20200926122158j:image

f:id:aso4045:20200926122202j:image


「小学校低学年で表計算ソフトを使って惑星の軌道を計算」…ってw。

まあ、いるんですよね、こういう人。

何となく想像がつきます。

 


でまあ、そういう人が切り開いていく未来に、新しい世界が見えてくるんでしょう。

それはがユートピアなのかディストピアなのかは分かりませんが、どっちになるにせよ、舵を取るのは「人間」ですから。

良くも悪くも「ヒト」が不要になるような社会が来ることはないだろう、と。

 


PFNの4つのバリュー

 


1)Motivation -Driven(熱意を元に)
2)Learn or Die(死ぬ気で学べ)
3)Proud,but Humble(誇りを持って、しかし謙虚に)
4)Boldly,do what no one done before(誰もしたことがないことを大胆に為せ)

 

「楽園」と思うか、「とんでもブラック」と思うか。

そりゃまあ、それぞれ。

ただそういうヒトや組織が、「世界」を変えていくんやろうな〜とは思います。

 


どっちかっつうと、僕は「ブラック」と思う方やけど…w。

ヘンリー・カヴィルのシャーロックはチョット「いい人」過ぎるかも:映画評「エノーラ・ホームズの事件簿」

Netflixオリジナル(というか、コロナ禍で公開ができなくなって…って流れかな)の新作。

「シャーロック・ホームズの妹」が主人公の映画です。

「推理」よりは「冒険」って感じですかね。

ま、ドイルのホームズ自体がそういう傾向の作品ですが。

f:id:aso4045:20200926073511j:image


個人的な期待度はあまり高くなかったんですが(失礼!)、思ってたよりも楽しくみることができました。

ツッコミどころは「かなり」あるんですがw(終盤の<突入>は、あまりにも「考えなし」過ぎるでしょう)、「あの時代」の美術に加え、その「時代」を踏まえた人権感覚やフェミニズム的なスタンス等、なかなか意欲的なところも感じられます。

ヒロインの母親(シャーロックの母親でもある)がヘレナ・ボナム=カーターですしね。

さもありなん…って雰囲気もw。

 


ヘンリー・カヴィルのシャーロックは「かっこいい」けど、「変人に見えない」とか、

マイクロフトがあまりの頭の硬い俗物に見えちゃうとか、

「侯爵」とヒロインの関係は作品テーマ的にどう?とか、

「第四の壁」(作中人物が観客に話しかける)は機能してる?とか、

言いたいこともあるんですけど、総じては「楽しめる」し、その中で「現代性」も打ち出してる作品ではあろうかと思います。

f:id:aso4045:20200926073547j:image

 


続編、あるかな?

あってもイイけど(原作は何作かあるはず)、語るべきことは語り尽くされてるって気もするなぁ。

やるなら「女性の自立」にもっとフォーカスする内容?

…重くなるかもしれないけど。

あったら観ますけどね。

「利権」という枠で括るのはもったいない:読書録「ドキュメント 感染症利権」

・ドキュメント感染症利権  医療を蝕む闇の構造

著者:山岡淳一郎

出版:ちくま新書(Kindle版)

f:id:aso4045:20200925070808j:image


作者ご自身の問題意識は

「今のコロナ対策で顕わになった感染症対策のミスマッチは、明治以降の日本の医療行政にある<組織の論理>や<利権構造>に根ざしている」

ってところにあるので、「利権」を表題に掲げるのはよく分かります。

ただ読んでみると、あまりにも重要で考えさせられるポイントが多く含まれてるんですよ。

「利権」というと、「そんなのけしからん!」「既得権益を打破すべき」…って流れになりますし、そのこと自体は間違いでもないんですが、「そう簡単にはいかない」って背景も本書からは見えてくるんですよね。

 


<まずは新型コロナ対策で〈政治主導〉がもたらした矛盾を検証し、時代をさかのぼって〈学閥〉の形成から利権構造を説き起こす。〈医学の両義性〉の観点から、戦中の七三一部隊の人体実験の蛮行を顧みる。差別された患者と〈官僚主義〉とのたたかい、〈グローバリズム〉による製薬利権の膨張や、バイオテロのリスクを手がかりに現代の闇に分け入ろう。>

 


明治維新後早々に発生した<学閥>という組織論理(森鴎外がその担い手として登場w)と後藤新平・北里柴三郎の戦い

第一次大戦下のパンデミック(スペイン風邪)の猛威から産まれた闇子「七三一部隊」と<学閥>の関係、戦後の医療人脈とのつながり

結核・ハンセン病との戦いにおける官僚主義の不全

エイズからSARS、そして新型コロナウイルスに至るまでの製薬会社と政治の癒着と、グローバル政治の関係

 


とにかく興味深い話が続々と披露されます。

「新型コロナウイルス」に関しての提言を期待してると「肩透かし」かもしれませんが(その観点からは、僕は作者の批判は<少し早い>と思います)、その背景にある「日本の医療行政の歴史と錯誤、さらには葬り去りたい「闇」まで、「知っておくべきこと」を簡潔に、分かりやすくまとめてくれています。

通勤途上で読み始めたんですが、あまりに面白くて、一気に読み上げてしまいました。

 


「新型コロナウイルス」対策という点では、論ずべきはこの点でしょうか?

 


<日本もアメリカも中国も、新型コロナ感染症の流行に対して、初動は遅れ、程度の差はあれ、情報が隠蔽された。そこからどうやって情報を開示させ、社会を立て直すのか。より精密に個人の行動追跡を行うなら、特定される個人の匿名性を守り、情報の二次使用を禁じ、追跡状況を本人が確認できることが必須であろう。大前提として個人情報を預ける政府への信頼が欠かせない。下手をすればジョージ・オーウェルが小説『 1984』で描いた全体主義のスローガン「自由は屈従である」「無知は力である」を地で行きそうな国家指導者もいて、うっかり信じると痛い目にあう。感染症と政治は連動している。>

 


<そこにポスト・コロナ時代に必要なものが見えてくる。個人の「自由」と権力による「統制」をつなぐ「公共」の領域だ。個人の自由を守るために互いの不自由を少し忍んで「共通善(コモングッド)」を目ざす、社会の基本原理に立ち返らなくてはならないだろう。強権的な統制よりも情報を開示し、人びとの合意のうえでの制限のほうが民主主義になじむ。そのための社会的基盤が「公共」の領域を厚くすることだ。>

 


「政府」を信頼することができるのか?

「公共」の領域を如何にして厚くしていくというのは、どういうことなのか?

 


それを考える上で、「歴史」を振り返ることには大きな意義があると、僕は考えています。

結構、「不都合な真実」なんですけどね。

ここで明らかにされてることは。

スターウォーズの世界を楽しめます:ドラマ評「マンダロリアン<シーズン1>」

人間、様々なエイリアン、ドロイド(ロボット)、星々の多様な環境とそれに適して進化したクリーチャーたち、多様な文化・哲学・政治・組織…

 


そういう多彩な「スターウォーズ」の世界観を楽しみ、その中での生活を想像する…という感じだと、この「マンダロリアン」は実によく出来てるドラマです。

もちろんストーリーはあって、「西部劇+子連れ狼」(製作陣が認めていますw)な展開なんですが、割とパターン的っちゃあパターン的なんですよねw。

そこに突っ込むんじゃなくて、PCゲームでオープンワールドを楽しむように、主人公たちの「案内」で多彩なスターウォーズの世界を楽しむってのが本作だと思います。

フォース/ダークサイドの哲学的対峙や、スカイウォーカー・サーガみたいなのを期待すると、肩透かしかも。

f:id:aso4045:20200923083720j:image

 


「ムーラン」が観たくて加入した「ディズニー+」ですが、僕の本命はコッチの方だったりしますw。

1話30分強で全8話。

7・8話は前後編で、シーズン2への橋渡しにもなっていますが、基本的には1話完結です。

どれも面白かったですけど、個人的には「6話」が一番好きですかね。

捻りがチョイチョイあって。

 


ちなみに可愛いと評判の「ベビー・ヨーダ」。

f:id:aso4045:20200923083742j:image


はい。

可愛いですw。

 


10月末からは「シーズン2」がスタート。

楽しみです。

キャラがイイ。続編が楽しみです。:読書録「ストーンサークルの殺人」

・ストーンサークルの殺人

著者:M.W.クレイヴン 訳:東野さやか

出版:早川書房(Kindle版)

f:id:aso4045:20200922093635j:image

 


停職明けの刑事、その刑事の元部下で上司になった女性警部、そして学研肌で度を越した世間知らずの女性分析官。

このトリオがすごく「イイ感じ」なんですよね。

特に「ティリー」という分析官が秀逸で、彼女と主人公が「友達」になる流れが、なんとも…。

シリーズ化されてるらしいんですが、彼女の「その後」を早く読みたいです。

 


事件やその背景はかなり陰惨で、社会的な「闇」を思わせる内容になっています。

途中までは面白いと思いながらも、

「まあ、最近は北欧ミステリーで結構こういうのもあるからなぁ」

と思ったりしてたんですが、終盤の展開にはグッと来ました。

 


主人公のアイデンティティ

「友情」の意味

「正義」をなす代償

 


「英国推理作家協会賞最優秀長篇賞(ゴールド・ダガー)」に相応しい内容です。

 


しかしまあ、「その名を暴け」の後に読むと、「欧米の金持ちってなぁ…」って気分になっちゃいます。

ここまでのことは、チョット日本を舞台にしてはないかなぁ…と。

 


…って、本作は「フィクション」なんですけどねw。