鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

お気楽に:読書録「ミステリなふたり あなたにお茶と音楽を」

・ミステリなふたり あなたにお茶と音楽を

著者:太田忠司

出版:創元推理文庫

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「氷の女王」の異名を持つ敏腕女刑事(警部補)と、その夫でイラストレーター兼主夫のコンビによる短編推理シリーズ。

このシリーズは息子が気に入ってます。

多分、4作目。

まあ、特に「続き」じゃないんで、順番はどうでもいいんですがw。

(なぜか幻冬舎と創元社からそれぞれ出版されています)

 


7つの短編が収められていて、それぞれの冒頭に「紅茶と音楽」にまつわる<エッセイ>があって、それが最終作でメインストーリーに絡んでくる

 


短編集には「ありがち」な構成ですが、その塩梅が「上手い」。

「事件」のほとんどは「殺人事件」なんだけど、仕掛けの仕上げになる7作目だけは「日常ミステリ」になっていて、細かい伏線も回収されて、「スッキリ」する感じ。

太田さん、ベテランの味わいw。

 


妻は「一つの話が短すぎて、ちょっと…」(最近、妻は「宮部みゆき」にハマってますw)と言ってましたが、僕はこれくらいの「軽さ」がちょうどいい感じですかね、今は。

寝る前のひととき、通勤時間の合間…なんかに読むのに適した作品だと思います。

特に「人生訓」みたいなもんを得ることはありませんが、紅茶の美味しい飲み方は身につけることができるかもしれませんw。

ワンス・アポン・ア・タイム…:読書録「ブルックリン・フォリーズ」

・ブルックリン・フォリーズ

著者:ポール・オースター 訳:柴田元幸

出版:新潮文庫

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本書を読む気になったのは、主人公が「60歳」間近の同年代だった…と言うのがあって。

「久しぶりに、ポール・オースターでも読んでみるか」

と店頭で思ったんですが、考えてみたら僕が読んだことのあるオースター作品は「幽霊たち」のみ。

しかも全然内容忘れてるしw。

 


まあでも面白かったですよ。

<幸福感あふれる>って帯に書いてるけど、まさにそんな感じです。

多彩なキャラが登場して繰り広げるドタバタ劇に、

「オースターってこんな作品、描くんだっけ?」

と思ったんですが、

 


<『ブルックリン・フォーリーズ』は、オースターの全作品のなかでもっとも楽天的な、もっとも「ユルい」語り口の、もっとも喜劇的要素の強い作品だと言ってひとまずさしつかえないと思う。>(訳者あとがき)

 


…と言うことのようです。

 


残念。

このノリなら、続けて何作か読んでみようかと思ったのにw。

それくらい「楽しい」読書時間を与えてくれる作品でした。

 


もちろんただの「幸福な物語」ではないんですけどね。

2000年5月23日の「再会」に始まった物語は、「2001年9月11日の午前8時」に幕を閉じます。

<それ以前>と<それ以後>で、ある種の時代が一変した瞬間を目前に。

 


そう言う意味では、<今>もまた、そう言う<とき>を迎えているのかもしれません。

新型コロナ…と言うよりは、インパクトとしては「Black Lives Matter」の方が大きくて深いですけどね。

「アメリカ現代文学」が、このタイミングでどんなふうになっていくのか。

それはそれで興味深いものがあります。

その時、オースターはどんな物語を語るんでしょう。

こんな「幸福」な物語は、もう無理かなぁ…。

主人公たちの<泣き>がいいw:映画評「EXIT」

昨年度、韓国で最大ヒットした作品かな?

宇多丸さんの評を聞いて、面白そうだったのでレンタルしました。

うん、面白かったです。

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コメディ&デザスタームービって感じですかね。

テロで有毒ガスが蔓延するビル街から脱出を図る男女二人を追いかけています。

 


古希の祝いで集まった親族を脱出させ、

閉じ込められた学習塾の生徒たちを脱出させ、

…と、自分たち以外の被害者を優先して脱出させる自己犠牲的ヒーロー

 


…なんですが、まあ情けなく「泣く」んですよね、この二人。

「助かりたい!」

って。

でも最後には自分たち以外の人間を優先して脱出させ、自分たちは必死で有毒ガスから逃げる。

このバランスが面白くって、ついつい感情移入してしまう構図となっています。

脚本もよくできてますしね〜。

 


個人的には終盤の「盛り上がり」のところは<もう一押し>あっても良かったかな?って気はします。

でもラストの抑えた締めは好き。

トータルでは「ものすごく楽しめる映画」でした。

 


こんなベタなコメディノリでもしっかり質の高いエンタメに作り上げてくる韓国映画。

やるな〜。

僕に語れることはあるのだろうか?:映画評「私はあなたのニグロではない」

Black Lives Matter運動の激しさを見て、妻が「黒人差別について勉強したいから」と言うことでレンタルして観た作品。

黒人作家ジェームズ・ボールドウィンの視点から、交流のあったメドガー・エヴァース(ミシシッピの黒人運動の指導者)、マルコムX、キング牧師に関する回想を交え、黒人差別について振り返る形式のドキュメンタリーです。

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メインとなるのはメドガー・マルコムX・キング牧師が暗殺されてた(!)60年代。

その時代を振り返るボールドウィン自身の「言葉」(作品や講演等からピックアップし、サミュエル・L・ジャクソンが語ります)だけで構成されていながら、映像には現代(製作は2018年。ボールドウィンは84年に亡くなっています)の差別や暴動のシーンも使われていて、ボールドウィンの問題意識や絶望感が、「今」にもつながっていることが明示されています。

 


黒人差別が「社会的システム」に組み込まれていること。

黒人自身もそのシステムの束縛にあること。

そのシステムは白人が<事実>ではなく<恐怖>から生み出し、維持しているものであること。

無知と先入観がそのシステムを白人たちに<不可知>なものにしていること。

そのシステムの中で黒人たちは自分自身の存在さえも脅かされていること。

etc、etc...

 


まさに今の「Black Lives Matter」運動の根本にあることが、すでにボールドウィンによって語られていること

それでも今なお、それは解消されていないこと

が本作を見ると浮き彫りになります。

例えばこんな記事。

 

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ed97378c5b69d703f385dd4

 

https://www.huffingtonpost.jp/entry/unwritten-rules-black-man-follow_jp_5edb3ee5c5b6a80a46d465f7

 

 

まさに、まさに。

 


暴動騒ぎになっている一面をとって、

「破壊活動まで行ってることを人種差別で説明しちゃうポリティカル・コレクト」

とか言う人の発言(日本人)をネットで読んだりもましたが、その問題意識が決定的にズレていることを痛感させられます。

…と言うか、何でもPCに繋げちゃうこと自体が、現状に対する「思考停止」なんじゃないですかね。(そもそもはPCに対してそう言う異議申し立てがされてたんですが、最近は逆になってきてるように感じます)

 


僕自身は「Black LIves Matter」運動に関しては、そのベースにあるエッセンシャルワーカーの問題や格差問題から一定のシンパシーを感じているんですが、本作を見ると、その僕のスタンスの「甘さ」「薄っぺらさ」も突きつけられたように感じたりもします。

 


「語りえぬものについて、ひとは沈黙しなければならない」(ヴィトゲンシュタイン)

 


ただそのスタンスそのものが、社会システムの抑圧を不可知にしている面も間違いなくあるでしょう。

日本においてもね。(格差、貧困、男女、外国人etc,etc...)

 


<向き合っても変わらないこともある。

だが向き合わずに変えることはできない。>(ボールドウィン)

 


Black Lives Matterは、まさにこの「向き合う」ことを求める運動なのだと痛感させられました。

そのことを認識した上で「語るべき」であり、そのことを知らずしては「沈黙する」しかないのではないか、と。

 


本作は相当「黒人差別」「公民権運動」に関する事前知識が必要なので、結構見るのはキツかったですけどねw。

でも観終わった後の、「ズーン」とした感覚もまた、格別でした。

「歴史」じゃないんだよね。

「今」なんだよ。

 

 

 

少しずつ「自分」を見つける:映画評「ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから」

Netflixオリジナル。

事前知識としては「LGBTQ版シラノ・ド・ベルジュラク」。

まあ、基本的枠組みはその通り。

でも、落とし所は…。

いい映画でした。

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アメリカの田舎町。

出口のない閉塞感を感じる高校生。

…と来ると「フットルース」?w

 


でも本作で登場人物たちが見つけるのは、もっともっとパーソナルで、内面的なもの。

だけど決定的でもある。

作品の終わりで彼らは「何者か」になってる訳じゃないけど、その一歩は確実に踏み出している。

そういう意味じゃ、邦題の「付け足し」も悪くないかもね。

 


シラノだと、彼が代筆する友人(クリスチャン)は「付け足し」っぽくて救われないけど、本作でその役回りをする「ポール」はしっかり「主人公」格を務めてます。

彼の「いいヤツ」っぷりが本作の見どころの一つ。

 


もっとコメディっぽいかと思ってたけど、そこは抑えめなので(笑えるシーンは結構ありますが)、前半はちょっとヌルく感じるかなぁ。

ちょっと見るものを選ぶとこもあるかもしれません。

 


僕は好きです。こういうの。

シャーリーズ・セロンが「イケメン」過ぎw:映画評「ロング・ショット」

シャーリーズ・セロンが大統領を目指す国務長官を、セス・ローゲンが彼女の幼なじみで「イケテナイ」ジャーナリスト(失業中)を演じるラブ・ロマンス。

この「逆転シンデレラ」がキモな訳ですね。

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まあ、楽しい映画でした。

日本の版のポスターは「フツー」でしたが、アップした海外版のポスターの方は、本作の一番ノッテルとこをピックアップしてていい感じです。

「イケメン」シャーリーズ・セロンのハッチャケぶりが楽しいんですよね。

 


ただまあ、作品全体としては「シャーリーズ・セロンがイケメンすぎ」でしょう。

最年少国務長官から、初の女性大統領を目指す

…いやまあ、「ありそう」って思わせるところが…w。

翻ってその「イケメン」ブリから考えると、セス・ローゲンとのロマンスの方は、「面白いけど、納得感に欠ける」って感じかなぁ。

そこのところで、チョビっと「女性」になるんですが(それ自体は悪くないんですけど)、その塩梅がネ。

まあ、でもこうやらないと、話が進まないってのはあるかw。

 


今の状況(新型コロナ対策で露わになった格差問題や人種差別)に照らし合わせると、「環境問題」で理想を追うって言う設定は、ちょっと甘く見えちゃうし(これは観る側の問題)、「セス・ローゲン」の成長がイマイチなのも気になりますが、「よく出来た映画」ではあるんじゃないですかね。

ラストの「脅迫」シチュは笑わせてもらいましたw。

語りえぬものについて、ひとは沈黙しなければ…:読書録「哲学と宗教全史」

・哲学と宗教全史

著者:出口治明

出版:ダイヤモンド社

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消費税増税前に買い溜めした本の一冊。

今まで「積読」状態でしたが、stay homeで時間ができたので、手にとってみました。

 


感想をひと言で言えば、

「思ってたより、面白かった!」

 


宗教が生まれる前、「言葉」の誕生から語り始めて、最古の宗教「ゾロアスター教」から、ギリシャ哲学、中国哲学、仏教、ユダヤ教・キリスト教・イスラム教、中世哲学(神学)、ルネサンス、近代哲学、現代哲学

…と歴史の大きな流れを追いながら、それぞれの時代における「宗教」「哲学」の概要、それらが歴史に与え、与えられた影響等を、分かりやすい文章で、整理して解説してくれています。

まあ、さすがになんの前知識もなしに読んだら「?」でしょうが、ざっくりと「世界史」の流れを知っていて、基本的な宗教・哲学の知識がある人にとっては、楽しめる一冊になっていると思います。

個人的には「イスラム」絡みのとこなんかは知識があやふやなところも少なくなかったので、かなり参考にもなりました。

 


まあ他には、

「近代・現代哲学、めんどくせ!」

って感じですかねw。

個人的にはイギリスの「経験論」はOKなんですが、デカルト以降の「大陸合理論」あたりになると、「考え過ぎちゃう」?w

カント以降については「現実」とのせめぎ合いが見えてきて実感も戻ってくるものの、枠組みが理論的に精緻になる一方で、「小さく」もなってきた感じも出てきて、「構造主義」までくると、

「いや、確かにそうかもしれないけど、そうなると哲学って…」

って気分にもなってしまいます。

「現代」ってのはそう言う時代なのかもしれませんが…。

 


「宗教」「哲学」とは何か?

作者はそれを次の問いかけへの答えの模索と整理します。

 


<・世界はどうしてできたのか、また世界は何でできているのか?

・人間はどこからきてどこへ行くのか、何のために生きているのか?>

 


「科学的には」答えが出ているこの問いに、それでも人間は問い掛け続けざるを得ない。

ヴィトゲンシュタインは、

「語りえぬものについて、ひとは沈黙しなければならない」

と言いましたが、その「語りえぬもの」を少しでもなくしていこうと試行錯誤し続けるのが人間のサガなのかもなぁ…とも。

 


未知のウイルスに翻弄され、感情的になる人々や、解消することのない人種差別の噴出なんかを見ると、「宗教」や「哲学」の必要性と限界を考えざるを得ません。

本書はそう言う思考への「土台」にはなると思います。

読んだからって、「答え」はそこにはないんですけどね。(「答えがない」ってことに至るまでの「歴史」とさえ読めるかも)

 


それこそが<現代>の課題なのかもしれないなぁ…。