鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「乱歩」の世界が楽しめます:読書録「乱歩殺人事件ー「悪霊」ふたたび」

・乱歩殺人事件ー「悪霊」ふたたび
著者:芦辺拓 江戸川乱歩
出版:KADOKAWA(Kindle版)

f:id:aso4045:20240413081451j:image

 

江戸川乱歩の未完の長編「悪霊」を、パスティーシュものの名手・芦辺拓が完成させた作品。
「未完の小説」というと、作者が死去して…みたいなケースが多いんでしょうが、「悪霊」は1933年(昭和8年)、乱歩が40歳くらいの時に発表され、中断されたままになった作品です。
明智小五郎ものでは人気絶頂…だけど、本格推理小説作家としては壁にぶち当たっていたと言う時期なんでしょうかね。
多分、「本格推理」好きの人には「悪霊」も名高い作品なんでしょうけど、僕は全然知りませんでした。


美しい未亡人が密室状態の蔵の中で全裸で刺殺される。
彼女が参加していた交霊会が、彼女の死後に開催されたとき、霊媒師の盲目の少女は更に殺人事件が続くことを予言する…


作品としては乱歩が書いた「悪霊」のこの連載4回分をそのまま組み込んで、
知る人ぞ知る(らしい)<トリック>
をベースに物語を展開させ、それを芦辺拓さんがひっくり返してみせる
…という構図になっています。
そこに江戸川乱歩の史実上のエピソード(張ホテル)を絡め、「なぜ中断しなければならなかったのか」を「悪霊」の事件に絡ませると言う入子構造に仕立てています。


…う〜ん、これでも言い過ぎ?
本格推理のあらすじってネタバレを避けようと思うと難しいですね。


戦前の推理小説(ましてや乱歩)なので、仰々しく、陰影のある描写が連続します。
「このままだと読むのが面倒になるかも…」
と思ってたくらいで、乱歩パートが始まって、ちょっと助かった気分w。
それでも全体として乱歩っぽい雰囲気を保っているのは、さすが芦辺拓さんです。
面白かったです。


まあ、「乱歩が書いた未完の小説を完成させた」と言っていいのかどうかってのはあるでしょうがね。
乱歩が考えてた構想に乱歩自信が出てきたとは思えないのでw。
一方でじゃあ、ストレートに「悪霊」をそのまま書き継ぐ…ってことやって、それが面白いものになるかというと、それもまあ…。
と言うことで、芦辺さんはいい具合にエンタメに仕立ててくれたんだと思います。


江戸川乱歩好きな方にはオススメの一作。
本格好きな方も。
そこらへんに興味がないと、「?」とは思いますが、そんな人は手に取らないでしょうねw。