鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

まさかこんな展開になろうとは…:読書録「卒業生には向かない真実」

・卒業生には向かない真実

著者:ホリー・ジャクソン 訳:服部京子

出版:創元推理文庫(Kindle版)

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「自由研究には向かない殺人」で、鮮烈さと清々しさを兼ね備えた10代の素人探偵として登場したピップことピッパ・フィッツ=アモービ。

「優等生は探偵に向かない」を経て、この3作目で「三部作」は完結。

…なんだけど、まさかこんな展開・結末になろうとは…。

 


1作目でピップは自分が敬愛する青年の無実を晴らそうと、学校の研究課題を利用して「真実」を追求する。青年の弟ラヴィと恋仲になりながら、彼女は青年の無罪を明らかにし、住んでいる街の暗部もまた露わにしてしまう。

2作目でピップはポッドキャストを使って犯罪調査を行なっている。その中で彼女は過去の事件の加害者(正確には共犯者)が贖罪と苦しみの日々を送っていることを知り、その事件の被害者家族が<正義>を実現するために殺人を犯す場面に直面する。1作目で炙り出した連続レイプ犯が裁判で無罪となったことが重なりピップの心は引き裂かれる。

 


清々しさとスッキリ感のある1作目から、「正義」と「真実」のグレイゾーンと刑事司法制度への絶望から「闇」を覗き込んだピップは、3作目ではグレイゾーンの中で苦しい日々を送っています。

不眠からドラッグ(ザイナックス)に依存するなんて、1作目のピップの姿からは想像もできない!

 


<正義。ピップはつねにその言葉にとらわれ、考えるたびに両手が血で染まった。正義という言葉こそ、自分にとって監獄であり、檻なのだ。>

 


彼女が依存しているのはドラッグだけではない。

「犯罪調査」もまた彼女を捕らえて離さず、そこに彼女は「突破口」を見出そうとする。

過去の連続殺人を追い始めるピップ。

だがその「闇」が彼女を捉えたとき、彼女は更なる一歩を踏み出してしまう…。

 


衝撃の展開であり、「推理小説」という枠組みから、本作は以降外れていくことになります。

「ミステリー・サスペンス」から「クライム・サスペンス」へ。

 


正直いうと、前半はほんと読むのが辛かった。

途中投げ出しそうになりながら、なんとかKindleの読み上げ機能で先に進めることができました。

きつかったのはピップが囚われたダークサイドに苦しんでるから…ってのもあるんですが、それ以上に彼女がラヴィや友人・家族たちに助けを求めようとしないこと。

もっとも大切に思ってる人たちに自分の気持ちを打ち明けず、1人で苦しんでいるところでした。

 


そういう意味じゃ、後半は、かなりな問題展開なのは確かなものの、「ひとりじゃない」という点ではちょっと気楽になったかな。

「ちょっと」だけど。

 


<その瞬間、前にすわって質問してくるのはホーキンスじゃないという奇妙な感覚にとらわれた。問いを発しているのは一年前の自分自身。どんな事情があろうと真実だけが唯一大切なもので、息が詰まるようなグレイゾーンに悩まされたりしない、十七歳の自分。ホーキンス警部補にとってもそうであるように、真実は目標であり、それを求める行程はまさしく旅だった。自分の向かいにすわっているのはそういう人物。昔の自分といまの自分が対峙している。そして新しい自分はどうしても勝負に勝たなければならない。>

 


この展開をどう評価するのかは難しい。

後書によれば、その根底にあるのは作者自身が経験した事件をベースにした刑事司法制度への失望と怒りのようです。

 


<この物語のある部分はみずからの怒りが源になっている。わたし自身が被害を受けたのに信じてもらえなかったという個人的な怒りと、ときおり正しくないと感じられる司法制度に対する怒りの両方が。>

 


20代の作者の激しい怒りは、確かにこのシリーズ(特に本書)からは伝わってきます。

時に息苦しくなるほどに…。

 


続編…は難しいかな。

この後、どうやってピップやラヴィがこれらのことを抱えていくのか、見てみたい気もする。

気もするけど…結構しんどいかな、それはそれでw。

 


なんにせよ、かなりな問題作であり、相当な出来の作品であるのは確か。

読むなら3部作を順番に読まなきゃ意味ないですけどね。

 


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