鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

2041年には76歳。さて、こう言う社会を楽しめるかな?:読書録「AI2041」

・AI2041  人工知能が変える20年後の世界

著者:カイフー・リン、チェン・チウファン  訳:中原尚哉

出版:文藝春秋(Kindle版)

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Googleの中国社長だった投資家「カイフー・リン」と、中国の新鋭SF作家「チェン・チウファン」が、現時点の技術革新の状況を踏まえて「20年後(2041年)」の社会を考察した作品。

10篇の短編を収められていて、その解説を含めて読むことで、技術革新の向こうの「20年後」の社会が垣間見えると共に、IT技術等の「現在地点」も把握できる内容となっています。

 


<共同作業はユニークだった。まずわたしが〝技術マップ〟を作成した。どんな技術が成熟し、データを収集して A Iを組み上げるのにどれくらい時間がかかり、製品として各産業に浸透するのはいつごろかを予測した。予期せぬ結果が起きる可能性についても説明した。技術的困難、法規制、その他の障害もありうる。ストーリーになる対立やジレンマが起きそうなところも指摘した。  

このような技術的要素をもとに、楸帆は才能をはばたかせた。登場人物、設定、プロットをつくり、これらのテーマを息づかせた。どの物語も魅力的に、刺激的に、そして技術的に正確であることをこころがけた。一篇ごとにわたしが技術解説をつけることにした。 A Iの中身を説明し、人間の生活と社会への影響をあきらかにした。全十篇に A Iの重要な要素をすべて盛りこみ、おおむね基礎から先進技術へ進むように並べた。こうしてできあがった本書が、ほかにない魅力的でわかりやすい A I入門書になることを期待している。>(カイフー・リン)

 


いやぁ、ホント面白かったです。

「未来予想」ってのは誰にもできることじゃないんだけど、これからの20年を考えるのに本書はかなり役に立つんじゃないかなぁ

ポイントは「現在の技術発展の状況をしっかりと把握し、そこから20年後の発展を予測してる」ってとこ。

ここを40年間IT技術の最前線を見続けてきたカイフー・リンさんが担ってる…ってのが本書のリアリティを支えてると思います。

まあ、それでも「どうなるか」は誰にも分かんないんですけどね。

 

 

 

未来1  恋占い:深層学習、ビッグデータ、インターネットと保険アプリケーション、AIがもたらす予期せぬ悪影響

 


未来2  仮面の神:コンピュータービジョン、畳み込みニューラルネットワーク、ディープフェイク、敵対的生成ネットワーク(GAN)、バイオメトリクス、AIのセキュリティ

 


未来3  金雀と銀雀:自然言語処理、自己教師あり学習、GPTー3、汎用人工知能(AGI)と意識、A I教育

 


未来4  コンタクトレス・ラブ:AI医療、アルファフォールド、ロボット医療への応用、COVIDに加速される自動化

 


未来5  アイドル召喚!:仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)、ブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI)、倫理および社会問題

 


未来6  ゴーストドライバー:自動運転車、完全自動運転とスマート都市、倫理及び社会的問題

 


未来7  人類殺戮計画:量子コンピューター、ビットコインの安全性、自律兵器、存亡の危機

 


未来8  大転職時代:AIに置き換えられる仕事、ベーシックインカム(BI)、AIが苦手な職種、職業置き換えに備える3R

 


未来9  幸福島:AIと幸福、一般データ保護規制(GDPR)、個人データ、ふぇでれーテッドラーニングや信頼実行環境(てえ)を使ったプライバシー

 


未来10  豊穣の夢:新しい経済モデル、貨幣の未来、シンギュラリティ

 


本書への批判については、「技術への批判的視線が欠けている」ってのを読んだ覚えがあります。

作者たち自身もその点にはコメントされています。

 


<めざすのは A Iの本当の姿を語ることだ。率直でバランスのとれた語り口で、建設的で希望ある内容を書く。描くのは A Iの実像だ。>(カイフー・リン)

 


<『A I 2041』では、暗く悲観的なディストピアばかり描かれる A I物の類型の逆をやろうと最初から決めていた。 A Iの欠陥や陰影は無視せず、それでも A I技術が個人と社会にいい影響をあたえる未来を描く。自分たちが住みたい未来、つくりたい未来にする。わたしたちの次の世代が技術発展の恩恵を受け、成果と意義を世界に還元し、楽しく暮らせる未来だ。>(チェン・チウファン)

 


まあ、この手の本で「科学の発展批判」を繰り広げても仕方ないですからね。

そういうポジションをSF小説が取りがち…ってのはあるにせよ。

 


とは言え、読んでみると、結構「批判的」視線もありました。

というか「メリット」「デメリット」をしっかり指摘してるって感じかな。

確かにスカイネットもマトリクスもないけど(それでも「人類殺戮計画」は結構近いとこまで行ってる)、

「ハッピーな社会がやってくるんだぜ!」

ってな感じではないです。

そのラインがリアリティをもたらしてる印象があります。

 


以前「ライフ・シフト2」を読んだ時、キャラクターを設定して短編小説的なアプローチをしてたのが興味深かったし、リアリティを感じさせたと思ったんですが、本書の場合、実力派の現役作家の力を借りることで数段インパクトを増していると思います。

小説としての出来もなかなかのものですし。

単なる「未来予想本」「ビジネス書」として読むのだけじゃなくて、中国SF小説の先端を楽しむと言う意味でも意義のある作品だと思います。

面白かったですよ。

まあ、僕自身がこう言う変化に対してポジティブってのもあるからかもしれませんがねw。

 

 

 

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