鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

端正な描写力とどんでん返しの連続:読書録「黛家の兄弟」

・黛家の兄弟

著者:砂原浩太朗 ナレーター:家中宏

出版:講談社(audible版)

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前作「高瀬庄左衛門御留書」はナカナカ雰囲気のある作品だったと記憶してるんですが、こちらもまた…。

 

筆頭家老の黛家の三兄弟。

後継の長男、やや自分を持て余し、身を持ち崩した雰囲気を持つ次兄、大目付・黒沢家に婿に入る三男。

主君の後継者争いと、藩政の主導権争いの中、次席家老・漆原内記の陰謀に兄弟は過酷な決断を迫られる。

13年後。

漆原の懐刀とまで呼ばれるようになった三男・新三郎は、廃嫡された主君の息子の死をきっかけに、過去の陰謀の影に再び直面することになる…。

 


前作同様、自然描写を丁寧に重ねつつ、そこに登場人物の心情を重ねる描写力は健在。

今回、audibleで聴くことで、その端正さを一層楽しませてもらえました。

その一方でストーリーの方はなかなか波乱の展開で、若き主人公を襲う悲劇を描く前半から、その「決着」を見る後半へと、思いもかけぬドンデン返しの連続が続きます。

ミステリー仕立て…とまでは言いませんが、

「なるほど、こう来るか」

という驚きは何度かありました。

(この構成ですから、13年の月日に主人公が秘めていた「想い」…なんてのは<どんでん返し>のうちにはカウントされませんよw)

 


時代小説の分野では「藤沢周平」「葉室麟」の系譜と言われることが多い作者と思いますが、確かに運命の過酷さ・人生のやるせ無さを感じさせる設定・物語展開と、それを支える端正な描写力には<近しさ>を感じます。

一方で本作なんかは先人たちの物語以上に仕掛けが組み込まれていて、それを読む者の驚ろきに繋げる物語運びの巧みさもあって、エンタメ性の高さにも感心させられます。

まあ、ところどころ「もうちょっと抑えたほうが…」って思うとこもなきにしもあらずではありますが。

上田秀人さんみたいにバンバン新作を発表できるような作風ではないですが、時代小説の質を引き上げていく作家の一人なのは間違いないんだろうなぁと思える一作です。

 


新作が出てますね。

どうしようかなぁ。

 


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