鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「アベノミクスのゆくえ」

・アベノミクスのゆくえ 現在・過去・未来の視点から考える
著者:片岡剛士
出版:光文社新書(Kindle版)



エコノミストによる「アベノミクス」解説書…みたいなものでしょうか。
作者自身はコンサルティング会社の研修員のようですが、浜田宏一氏にも近く、まあ「リフレ派」に属する論客かと。
本書は「2013年4月」に出版されているので、「アベノミクス」スタート間際の本になります。
従って「アベノミクス」の理論的バックボーンとなったメンバーが、
「アベノミクスってこういうものなんですよ」
と説明した作品と言っていいと思います。



僕自身は、
「政策に絶対の正解はない」
と思ってます。
どんな政策でもその時の「状況」と「分析」を踏まえた「対処療法」でしかなく、たとえスタート時点で上手く機能してても、「状況」に変化が生じた場合は、それに合わせて政策も変更して行く必要がある。
まあ当たり前っちゃあ当たり前の話なんですが、「政策論争」が何となく「神学論争」みたいになっちゃうのは、そういう時間軸が抜けちゃってるようで、違和感を感じてしまいます。
本来、政策だって「トライ&エラー」が重要なんだと思うんですよ。



本書はそういう「時間軸」なんかも含めて、「状況」の把握や分析、政策の立案実行、そこに伴うタイムラグの問題なんかも整理して説明してて、「アベノミクス」云々する前に、ここら辺のクレバーさが凄く参考になりました。
現在・過去の分析も頭の整理にもなって、非常に読み応えがあります。
まあ「リフレは派」ですから、その延長は「金融緩和の重要性」につながるわけですがw、説得力はあると思いますよ。



本書の中で作者はもちろん「アベノミクス」を評価するわけですが、懸念点も指摘しています。
「大胆な」金融政策
「機動的な」財政政策
「民間投資を喚起する」成長戦略
そのうち「起動的な」財政政策に対しての、「消費税増税」
まずはここですね。
加えて「所得再配分政策」の欠如。
細かくは色々あるんですが、この2点が作者が指摘する「アベノミクスって」への懸念です。
そして1年余りがすぎた現時点から見たとき、この懸念が現実化しつつある…ってのが現状じゃないですかね。



これに安倍政権への懸念という意味では「歴史修正主義者という批判」が加わるでしょうか?
「集団的自衛権」の問題なんかは国内外でも賛否があるところですが、「歴史修正主義」については(国内はともかく)海外から肯定的評価を受ける可能性は低いですからね。
「アベノミクス」の「大胆な金融緩和」はグローバリズムの中での海外金融情勢との相対的なポジションとの関連性が高い施策だと思いますが、それ故にこの点は「リスク」となりうるポイントだと思っています(「正しい」「間違っている」という論点とは関係なく)。



と言う訳で「懸念」が持たれつつも、何とか機能してる…というのが、現時点での僕の「アベノミクス」の評価です。
これが「懸念」のままで収束するかどうかについては、次の「消費税引き上げ」の判断をするか否かってあたりでしょうか?
そういう情勢じゃないと思うんだけど、ここら辺、ちょっと雲行きが怪しいです。
あとは「TPP」。
こっちもどこまで「既得権益」を退けつつ、メリット・デメリットを明確化した論議が出来るか…という辺りは本書の指摘でもあります。



ここら辺を乗り切れないと、「アベノミクス」は賞味期限を迎え、安倍政権は原理主義的な保守色を強めて行くことになる…というのは、あまり望ましくない展望。
野党勢力の整理ができてないだけに、もうちょいと自民党には頑張ってもらわねばならんのですがね。



はてさて。