鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「第五の権力」

・第五の権力 Googleには見えている未来
著者:エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン 訳:櫻井祐子
出版:ダイヤモンド社(Kindle版)



元GoogleのCEOが描く今後の未来社会。
SF的な未来像じゃなくて、この5年、10年くらいのスパンで、IT技術を中心に論じた本です。



さすがに元Google経営者。
描かれている技術は極めて具体的で、リアリティがあります。
「これは無理じゃないのぉ」
ってのはあんまり感じませんでしたね。むしろ、
「もうできてるんじゃない?」
って感じ。
もっともあんまり技術的なところはついて行けませんでしたがw。



彼らが語る「未来」において最も重要なのは「コネクティビティ」。
これはもう、「良い」「悪い」じゃなくて、「すぐそこにある現実」。
2025年には人口80億人のうち、70億人が繋がる(今は20億)。
この「現実」を前提に、ソレを支える「IT/ネット技術」、それを踏まえた社会/権力等の可能性(メリット/デメリット含め)、望ましい方向性、等が幅広く語られていて、考えさせられることも多いです。
ウィキリークスのジュリアン・アサンジは本書について、
<テクノロジー至上主義的な帝国主義への青写真>
<この本は、未来のために戦う者たちの必読書である。・汝の敵を知れ・という意味において>
と評したとのことですが、本書自体にもコネクティビティの進展が持つ危険性はかなり詳細に書かれていると思います。IT企業の元経営者が語ってるとは思えないくらいに、ね。



本書でも指摘されている通り、ネットで繋がった「仮想社会」が今までにない力(第五の権力)を持つのは間違いないとしても、「現実社会」を変革するにおいては現実的な政治勢力や組織(暴力装置を含め)、統治能力等が不可欠です。
このことは「アラブの春」以降の中東を見れば明か。
一方で技術の進展速度が驚くほど早い中で、「国家権力」という視点からは、反権力組織がその活用を身につける速度より、(中央集権的な統制が効いた)旧来組織を持つ独裁的/統制的な権力組織の方が早期に活用に踏み出せる可能性があり、ここら辺に今後のIT社会における「重大な懸念」はあるんじゃないかと思います。
アサンジやスノーデンはそこを指摘してる訳ですが、(まがりなりにも)民主主義が機能している組織に対して破壊的に振る舞うことがトータルとして良いのかどうかは、その後の経緯などを見てると、ちょっと考えさせられます。
「透明性」ということの自浄作用については僕自身、高く認識し、評価してるところではあるのですが・・・。



社会生活という視点では、「データの永続性」と「プライバシー」の関係なんかも、考えさせられます。
「忘れられる権利」なんかも語られるようになっており、それはそれで重要不可欠な動きだと思うのですが、一方で本質的には「データの永続性」は良くも悪くも社会を変えて行くでしょう。
「それを前提に自分たちが変わって行くしかない」
ぶっちゃけ作者達はそういってるように思えますが、もう少し技術サイドでできることがないのか・・・とも思います。まあそこも技術に頼るようだと、どこまでいっても「信頼性」を巡るイタチごっこになっちゃうとも言えますが・・・。
そこは自衛的に対処せざるを得ない・・・まあそういうことでしょうか。



僕自身はネット技術に対しては「楽観的」でありたいと思っていますし、社会へのその浸透は「不可避」であると考えています。
ただその最先端を担ってきた人物が、その可能性を信じながらも、一定程度の「警告」を発せざるを得ないという点。
この点はリアルに考えるべきでしょうね。



今、読むに値する作品だと思いますよ。