鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「日本中枢の崩壊」

・日本中枢の崩壊
著者:古賀茂明
出版:講談社


作者は現役の経産省官僚。
先日(土曜か、日曜かな)、経産省から正式に退職を命じられたことが新聞記事になっていた。
まあ年次的には「肩叩き」される年次だから、そのこと事態は驚くべきことじゃないんだけど、公務員制度改革を巡って民主党政権を批判してきた現役官僚(国会答弁について仙石官房長官(当時)に「恫喝」されたことも有名)への退職勧告だけにニュースバリューがあると見られたのだろう。
その判断には5月に出版された本書も関係してるのかな?
報道がされたのはまだ本書を読んでる途中だったので、タイミングには「おっ」と思わされた。



でも実は作者の公務員改革に関する取組みは、法案になってるんだよね。
安倍政権下、渡辺喜美大臣で成立させた公務員制度改革法案がソレ。
従って経産省改革派官僚であった作者の考えは実現の一歩手前まで行ったことになる。
ただその法案が福田政権・麻生政権で骨抜きにされ、そのことが渡辺議員の離党に繋がった・・・というのがその後の顛末。
民主党政権成立後もこの法案は骨抜きにされ続け、現状は相当後退した(=官僚寄りの)制度改革(?)となってしまっている。
そのことを批判する文章を週刊誌に発表したことを契機として、自民党に国会招致され、その答弁を巡って、仙石官房長官から「恫喝」をうけた・・・と。

なかなかドラマッチではある。



作者の公務員制度改革の内容は実に真っ当だと思うけどね。
リストラ・処遇切り下げを可能とする内容だけに官僚サイドからの反発も激しいことは容易に想像できるけど、現在の財政状況を踏まえると、こういう方向性を打ち出さないと国民の納得感は得られないだろう。
東日本大震災による日本社会へのインパクトもその流れを後押しすることになるんじゃない?
現在、政局は混迷していて、その中で官僚の存在感も上がっているような気がするけど(民主党が政局に振り回されているだけに)、いずれこちらの方向に流れは向かわざるを得ないと個人的には考えている。(「期待している」と言った方がいいかな?)



作者は民主党政権への批判で有名なんだけど、一方で「恫喝した」とされる仙石議員については、意外に高い評価(あるいは「理解」)をしている。
「戦術は悪くないけど、戦略がまずかった」
ってな感じかな?

あと「公務員制度改革」を論じながら、結構日本の経営陣に対する厳しい評価も読みどころの一つかも。
労働規制に繋がる論陣も張られていて、決して「公はダメだが、民はいい」ってスタンスでないのも分かる。

巻末の「東電」処理案も一読の価値はあるね。



総じて言えば「自由主義論者」の制度改革論ということになるのかもしれない。
ただ
「制度改革をする上においては、まずは改革をする側=官僚自身の改革から手を付けなければならない」
という決然としたスタンスが本書はいいんだよね。

<「日本の裏支配者が誰か教えよう」>

なんて帯の仰々しさに比して、本書の印象は暴露本とは遠いところにある。

(勿論、その向うには厳しい「民」への改革も待ってるんだけど・・・)



さて、今後作者はどうするんだろう?

政治的な距離は渡辺喜美議員と近いから「みんなの党」から政治家になるか、あるいはそのスタッフにおさまるか?
最近、菅首相と民主党執行部に断絶が生まれるつつあるようだから、菅首相からの一本釣りなんかもあったりしてw。



まあいずれにせよ、「退職後」については、それはそれで注目される人材ではあるだろう。

ちょっと気になるところだ。