鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「ゴールデンスランバー」

・ゴールデンスランバー
著者:伊坂幸太郎
出版:新潮文庫



震災後、しばらく本を読む気になれなかったのは、確かに環境のことや、精神的な落ち着きのなさもあると思うんだけど、そのとき読んでた本がコレだったって言うのもあったろう。
本作の舞台は「仙台」。
僕は仙台に住んだことはないので、本作で描かれている「仙台」を現実と重ねることは出来ないんだけど、それでもその「舞台」が今被災にあっているという意識はどっかには生じてしまう。
本作の映画化作品のテレビ放映が延期されたらしいけど、まあそうだよなー。
結局、震災後、10日間近く放置することになっちゃった。


改めて読み始めてみれば、面白くて、最後まで引っ張られた。
特に後半のノリはドライブ感タップリ。
複数の人物の視点を持ち込むのは、「伊坂幸太郎」って感じだけど、本作ではそこに「現在」と「過去」という視点も持ち込んでいる。
その錯綜する視点が一気にラストへ・・・
っていうのが本書の構図。
ここら辺の「仕掛け」が、作者の「上手さ」でもあるよな。


「陰謀」の全容が明らかにならないのは、物語そのもののドライブ感には影響ないから、それはそれでいいのかも(「種明かし」を入れると、そのドライブ感が削がれるかもしれないし)。
「魔王」とかもそうだったしね。
ただエンターテインメントとしては少し親切心にかけるとも言えるかもしれない。
「20年後」で明らかにされる多発する「事故」の陰に、「復讐」を感じることもできるけど、そこを曖昧にするあたりも同様。
ま、ここは好みかもしれないけどねぇ。
(個人的にはもうちょいエンタメに寄ってもらって、ヒントみたいなエピソードを挟んでくれても良かったのにという印象)


仙台で罹災した伊坂氏は幸いにも無事とのこと。
引き続き、良質の作品を生み出してくれるでしょう。
その中には、震災から立ち上がってくる仙台の姿があるのかもしれない。

それを待ち望みたい。