・萩尾望都と竹宮惠子 大泉サロンと少女マンガ革命
著者:中川右介
出版:幻冬舎新書
日本の漫画界の創世記を支えた「トキワ荘」についてはいろいろ書かれていますが、それを受けて次のステップにマンガを引き上げた少女漫画家達の動向については、あまりまとめたものがないと思います(僕が知らないだけなのかもしれませんがw)。
本書は「萩尾望都」「竹宮惠子」「増山法恵」の3人を中心に構成された「大泉サロン」手を取り上げ、彼女たちが10年で成し遂げた「少女マンガ革命」についてまとめた一冊です。
個人的にはここら辺の作家たちの作品は大好きですので、断片的には知ってることも多かったんですが、こう言う風に「歴史的」には整理されたなかったので、実に興味深かったです。
竹宮惠子・萩尾望都のデビュー前後となる「1968年」。
出版界に登場する少女漫画家たち。
里中満智子、青池保子、大和和紀、庄司陽子(講談社)
池田理代子、忠津陽子、美内すずえ、一条ゆかり、大島弓子、樹村みのり(集英社)
ここに少女コミック(小学館)を主戦場とする竹宮惠子・萩尾望都が参戦する。
(少し遅れて山岸涼子、山田ミネコ。坂田靖子・花郁悠紀子は大宮サロンの申し子的位置づけでしょうか?)
いやぁ、クラクラするような綺羅星たち。
本書の前半は手塚治虫・石ノ森章太郎の影響を受けた彼女たちが一気に舞台に上がってくる流れを追っています。
そして満を辞しての「竹宮惠子」と「萩尾望都」の登場。
後半は、(知る人ぞ知る)「増山法恵」を中心として構成された「大宮サロン」の経緯、その中での萩尾望都の「快進撃」と竹宮惠子の「苦闘」がメインとなります。
そしてその戦いの中で摩滅しそうになった「竹宮恵子」がサロンを解体する…。
<<どうすれば開放されるのか。せめて離れたかった。><異なる空間の中にいれば、少しは救われるかもしれないと思い始めるのに時間はかからなかったと思う。>
そしてー<どうしようもなくなった私は萩尾さんに、「距離を置きたい」という主旨のことを告げた。>
まあ実際、1970年台前半の萩尾望都の快進撃は、題名だけを見てても恐ろしいものがあります(「ポーの一族」のコミック発売が74年)。
近くにいたら、こりゃおかしくなるかもしれません。(自身が才能があるだけに尚更に)
作者はこの「別れ」にはもう一つ「増山法恵」の奪い合いがあった…と読んでいます。
竹宮惠子には確かに彼女が必要でしたが、萩尾望都にとっては(少なくとも創作上は)彼女の必要性が高かったとは思えないので、「奪い合い」とは言えないかもしれませんが…。
ま、ここらへんは「憶測」なんでなんとも言えません。
「十年目の毬絵」(萩尾望都の77年の短編)に重ねるあたり、深い余韻を感じはしますが。
僕自身は「風の木の詩」(竹宮惠子)と「残酷な神が支配する」(萩尾望都)で脱落してる時点で、彼女たちの「良い読者」であるとは自分を考えていません。
ただまあ、彼女たちの「圧倒的な創造性」には感服していますし、その「革命」は少女マンガにおさまらず、マンガ全体、さらにはサブカルチャーそのものにまで影響したと信じています。
(=今人気の「約束のネバーランド」だって、「鬼滅の刃」だって、彼女たちなしには生まれ得なかった作品でしょう)
それにしても竹宮惠子さんが実質上「引退」状態にある(後進育成に務めておられるようです)とは知りませんでした。
「風と木の詩」はアカンかったけどw、「ファラオの墓」とか「地球へ…」とかの骨太路線、好きやったんやけどな〜。(「私を月に連れてって」あたりも)
まあ、ここに来て「ポーの一族」を再開する萩尾望都の方が異常なのかもしれませんが…w。