・父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
著者:ヤニス・バルファキス 訳:関美和
出版:ダイヤモンド社
破綻寸前のギリシャで財務大臣を務め、EUの押し付ける緊縮財政に強く反対した経済学者&政治家の著作。
書かれたのは財務大臣就任前ですが、内容は政権にいた際に取ったスタンスを裏付けるものになっています。
「娘に語る」ってスタンスになってますが、映画や小説を引用しながら語る内容は、分かりやすく、興味を持って読み進めることが出来ます。
しかしまあこの「娘」って幾つくらいかなぁ。
高校生…じゃ、ちょっと知識が追いつかないでしょう。
社会人になる少し前
…そんな感じかな。
内容としては経済を数字や理論で語るのではなく、その背景にある「人間の営みや欲望」に焦点を置いて論を展開しています。
金利や政策が投資を促進するのではなく、経営者の期待や予想が投資に影響する(だからこそ緊縮ではなく拡大を期待させる政策を打たないと、設備投資は増えない)
自動化の進展は人件費の低下につながり、進みすぎた自動化は人件費との逆転効果につながり、皮肉ではあるが労働者の増加につながる可能性がある
…あたりの指摘、その論じ方なんか面白いですね。
交換価値と経験価値の話、経験価値がすべての尺度となった市場経済と格差、利子と借金と投資の関係、「囲い込み」とグローバル貿易の関係とその果て、「機械の中の幽霊」としての公的債務
う〜ん、興味深い話、満載。
ここで語られるのは「善と悪」の物語ではない。
それぞれが立場を入れ替え、影響し合いながら、社会を回していく、人間の営みの複雑さが語られようとしているのだと思いました。
< 「経済学者も星占い師みたいに科学者のふりをし続けてもいいのかもしれない。だが、経済学者はどちらかと言うと科学者ではなく、どれほど賢く理性的であっても人生の意味を確実に知ることはできない哲学者のようなものだと認めたほうがいいのでは?」>
それでも作者は娘に語ります。
<「君には、いまの怒りをそのまま持ち続けてほしい。でも賢く、戦略的に怒り続けてほしい。そして、機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を公正で理にかなった、あるべき姿にするために」>
安易な断罪や決めつけではなく人間に対する深い理解に根差しながらも「理想」を追っていくことを娘に願っているのでしょう。
その恐るべき困難さは、自身がギリシャ政権の激動の中でたっぷり経験されたようですが…。