鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

やっぱり「格差」かなぁ:読書録「なぜローカル経済から日本は甦るのか」

・なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略
著者:冨山和彦
出版:PHP新書

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)

なぜローカル経済から日本は甦るのか (PHP新書)


ちょっと「地域経済の将来」「地域創生」について考えてみる必要があって、ベースとなる知識の整理のために読ませていただきました。
G大学・L大学で議論を巻き起こした作者の作品ですがw、(14年6月出版だから)少し前の本ながら、すごく参考になったなぁ、と。「地域創生」政策がどれだけ作者の考えから出ているのかは分かりませんが、通じるところはあるとは思いますよ。


まずは経済を、「世界を相手に熾烈な自由競争を繰り広げるG(グローバル)の経済」と、「地域密着での産業構造となっており、流動性・競争性に制約のあるL(ローカル)の経済」に区分し、それぞれの目指すところを論じています。
実際には相互間に関連性はあり、その点は作者も指摘してるんですが、確かにこういう整理をした方が「現実」をうまく説明できるっていうのはあるかな、と僕自身の肌感覚でも思います。
単なるコンサルタントじゃなくて、東北でバス会社を経営している作者ならではの「感覚」が活きてると言ってもいいですかね。


「G」については、まあ「新自由主義」的競争世界。
従ってそこで必要とされるのは、「天才」に近いような極めて優秀な人材であり、戦略的な経営者・資本家・投資家です。
はっきり言えば、今までの日本にはあまりお見かけしなかった世界であり、人たち。
その危機感が、一連の「G大学」発言につながるんでしょうな。


一方で「L」は全く異なり、地域密着であり、労働集約型の中小企業が中心となる世界。産業としては「サービス業」が中心となり、「公的サービス」や「地域コミュニティ機能」などとも関係性が深いことから、自由主義的な競争原理は制限的です。
求められる人材は「天才」ではなく、「勤勉で真面目な」人々。
そういう意味では今までの日本社会が育ててきた人材とも言えるでしょう。


この区分の上で本書が指摘しており、今後の「地域経済」を考える上で重要なのは、
「ローカル経済においては人口減少によって労働者不足が生じている」
ということ。
そしてローカル経済を支える産業が公的・地域コミュニティ的サービス業であることから、その産業の成長や維持そのものが「地域」の維持に密接につながっているという点でしょう。
ここら辺は「地域消滅」なんかにもつながる話です。


作者は「G」において重要なのは「資本効率性」(人と物(カネ)の効率性ですかね)と指摘し、「L」においては「労働生産性」であると喝破します。
これは個人的には「納得」。
まあ「G」は分かりやすいですが、「L」を考える上では「地域を支えるサービス産業において労働者不足になって来ている」という点を踏まえる必要があります。と同時に「労働生産性」を上げていくことは所得を上げていくためにも重要な視点ですわね。
ここに踏み込まなければ「L」の世界は縮小する世界になってしまいます。
まあ「里山資本主義」的な見方もありますが、「みんな貧乏になろう」って言うのとはチョット違うでしょう。中小企業サービス業の労働生産性が他国に比べても著しく低い現状を踏まえてもそう思います。
第一、地域サービスが成立しなくなってしまう(=地域消滅、地域破綻)というリスクもあります。
(ただ「労働生産性」を上げるためには、「個人」の能力アップ以上に、(ビジネスモデルや経営力が)非効率な企業や産業には「退出」してもらう必要があります。
「労働力不足」という状況があり、地域に必要とされるサービス産業が中心であることから「労働力の移動」のハードルは低いはずなんですが、日本社会においてはなかなか受け入れがたい方策でもありますかね)


僕自身は(一定のハードルの高さは認識しつつも)本書の論じている大きな方向性には賛同できる点が多くあります。トリクルダウンが全く起こらないとは思いませんが、ある種の経済区分が生じつつあるのは「現実」だと感じています。
その上でやっぱり気になるのは「格差」ですかね。
いくら「L」の経済で労働生産性が上がり、所得が増えたとしても、「G」の経済における収入との格差は否定しきれないでしょう。
「それは熾烈な競争の果ての果実なのだから」
まあ、その通りなんですが、これだけ同質性・均質性の高い日本社会でそれを許容する風潮が生まれてくるのかどうか?
アメリカでさえ「トランプ旋風」が起きていることを考えると、楽観的に離れません。
僕自身の「心」を覗いてみても、ですねw。(ちなみに僕の仕事は、どっぷり「L」です)