鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

深い。:読書録「鹿の王」

・鹿の王<上・下>
著者:上橋菜穂子
出版:角川書店(Kindle版)

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐

鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐

鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐

鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐


「獣の奏者」に続く上橋作品。
これまた息子が先に読んでて、「面白かった」との感想を頂いてました。
「続きを書いてくれないかなぁ...」とも。


うーん、分からんでもないかなぁ。
確かに「それでどうなったんだ!」と言いたくなる気持ちは分かります。
でも僕としてはこのラストの余韻は好きですね。この「余韻」の中で、
「彼らは幸せになったんだ」
と思いたい。
下手に続編なんか描かれたら「獣の奏者」のように、
「確かに話のカタは着いたんだけど...」
ってオチになりかねません。(いや、あれはあれで「傑作」ですが)
それくらい本書のテーマは(「獣の奏者」と同様に)深い。
これを児童文学でってのが、ホントに驚きです。


<「ですから、私たちは、過酷な人生を生き抜いてきた心根をもって他者を守り、他者から慕われているような人のこと、心からの敬意を込めて、あの人は<鹿の王>だ、というのです。>


<才というのは残酷なものだ。ときに、死地にその者を押し出す。そんな才を持って生まれなければ、己の命を全うできたろうに、なんと哀しいやつじゃないか、と>


ウイルスとワクチン、文化と科学、支配者と被支配者、個と集団...
複雑なテーマを複層的に展開しながら、その核となるところで<鹿の王>の悲劇が浮き上がってきます。
かつて自分の氏族のため「捨て石」の運命を受け入れた男が、人々のために再び身を捨てる覚悟をして去っていく。
その<鹿の王>の姿に、それでも「幸あれ」と思わざるをえなくなるラストを重ねた作者の手腕はすばらしいと思います。


やっぱり「続編」は要らないと思うけどなぁ。