鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「『ニセ医学』に騙されないために」

・「ニセ医学」に騙されないために 危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る!
著者:NATROM
出版:メタモル出版

「ニセ医学」に騙されないために   危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る!

「ニセ医学」に騙されないために 危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る!



現役の医師による、「反医療論」「代替治療」「健康法」における「ニセ医学」への批判書。
作者のいう「ニセ医学」っていうのは、査読を通った論文等による明確な根拠のない「医学」ってとこですかね。
反駁論としては、しっかりと根拠を明示していて、文章も読みやすく(ま、もとはブログのようですし)非常に納得感のある作品でした。


<ただし、科学とニセ科学の境界が不明瞭なのと同様に、医学とニセ医学の境界も不明瞭だ。しかも、臨床の現場では、医療制度や医療機関の事情、製薬会社の思惑、個々の医師の能力不足により、必ずしも医学的に正しい診療が行われないこともある。>


ま、バランス感覚もありますよね。
体調を崩してしまい、精神的にも揺らいでしまっている状況ではナカナカ冷静な判断もしづらいので、「健康」なウチに読むのが望ましい本です。
肥満、痛風等で「健康」ってのも何ですがw。


内容については「なるほどね」と納得なんですが、ちょっと気になったところがいくつか。


一つは「ペンネーム」です。
本書では実名を挙げての批判もかなりしていますので(ここは評価点でもありますが)、それだけに批判する側がこういうペンネームだと、ちょっとスタンスにバランスを欠く印象になります。
現役医師ですから、色々差し障りがあるんでしょうが、もう少しここは何とかしたほうがよかったかなぁ。
ネットで記事を読む人は、過去の蓄積を評価して、むしろその名前で出版されたことを本人認証として考えてくれるかもしれませんが、そういう人ばっかりじゃないでしょうからね。
これは良い本だけに、ちょっと残念。


もう一つは「近藤誠」氏。
「がんは治療するな」なんていうのは、正に近藤医師の主張だと思うんですが、本書ではそこへの言及はありません。
まあ色んな人が反論もしてるから、それはそれでいいという判断があったのかもしれませんが、ビッグネームだけに、こんな風にスルーされちゃうと、色々詮索しちゃいたくなっちゃいます。(出版社の圧力、医師としての評価etc,etc)
そういう「詮索」の余地があるっていうのは、こういう本にとっては「マイナス」だと思うんですよね。他では実名批判してるだけに、ここは気になりました。


医療本はいろいろ難しいところもありますな。
ベースには医師に対するやっかみみたいなものもあるように感じますし、必ずしも医学会サイドが「正しいことをしている」とも思えないところもある。
最も成功した医学効果が出産死亡率の低下に結実しながら、結果としてそのことが現場の崩壊につながるとか、権利意識の高まりの中で「司法」が医療現場に関与する中で医学現場の混乱や逡巡が見られるとか、その動きそのものが医学会への不信につながるとか…。
「人間」そのものを相手にしているだけに、簡単には整理できないことが多すぎるんですように思います。


その間隙を「ニセ医療」が突く。


色々意見はあるにしても、この構図は頭に叩き込んでおくべきでしょう。
そういう「自衛手段の」として、本書は役に立つと思います。
読んでおく価値はあったかな、と。