鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「日本の論点 2015-2016」

・日本の論点 2015〜2016
著者:大前研一
出版:プレジデント社(Kindle版)

大前研一 日本の論点 2015~16

大前研一 日本の論点 2015~16


「プレジデント」連載の第2弾。
前作の方は大前氏の他の作品とまとめて読んで、「今時点での大前氏のスタンスの再検証(再確認)」みたいな感じでとらえたんですが、今回は最近の事実問題への大前氏の考え方…といった読み方になりました。ま、作品の成り立ちとしてはそういう作品ですからね。


基本的なスタンスは、
「日本の諸問題(特に財政問題)を解決するには統治組織・制度の効率化が不可欠。そのために道州制の導入が必要」
というのがベース。
この線から本書では「ドイツ」が比較対象として具体的に論じられています。「クオリティ国家という戦略」では小国を中心に紹介していましたが、「ドイツ」という大国との比較って言う意味で、これはこれで興味深かったですね。
「ドイツ」が戦後責任の取り方で日本とは違うスタンスを貫いてきたのは知ってましたが(その評価はマチマチとは思いますが)、「州」に強い権限を持たせ、連邦的な国家形態を取ってるっていうのは、不勉強にも知りませんでした。
中央集権的な仕組みで戦後の行動成長をリードした日本が戦後復興では一歩先んじながら、成熟と多様性を活かし、グローバルな判断・対応が必要な段階になると、連邦制を活用してきたドイツにリードを許してしまい、その差は広がり続けている。
「道州制」を主張する大前氏の考えにはドンピシャの例です。
どこまでそこに普遍性があるかはなんとも言えませんが(ドイツにも色々な課題があり、EC問題と連動して、懸念は決して拭い去れませんから)、一つの「見方」としては非常に参考になります。
なんにせよ、日本の今の統治組織・体制に見直しが迫られていることは間違いないですからね。


本書の面白さは、そう言った視点から入りながら、安倍政権の危うい(と見られがちな)性格にまで言及しているところでしょうか。
大前氏自身は(本心は知りませんが)政治哲学・思想的なところはあまり語らない方だと思いますが、その目から見ても、中韓・米を中心とした近隣諸国との関係には懸念を感じざるを得ないようです。
僕自身も大前氏同様、安倍氏が「歴史修正主義者」だとは思いませんが、そう取られかねない言動の「甘さ」「ゆるさ」があるとは思います。
「グローバル化」っていうのは民間だけではなく、「政治」「行政」にも求められる流れです。
この点を認識することの重要性について、もっと痛感すべきだと思いますね。


もう一つの読みどころは「エネルギー政策」。
原子力技術者であった経歴も踏まえ、具体的でリアルな提言がなされています。「原子力規制委員会」の「性格」についてのコメントも興味深いですね。かつての「安全神話」のポジションに規制委員会がおさまるような向きも一時ありましたし。
政権サイドも基本的には大前氏と同じような方向性を考えてるんじゃないかな、とは思います。ただここは「政治的判断」ってやつが働いてるんでしょう。確かに国民感情はまだ「原子力」には否定的ですから。
ただそこを「待つ」ことによる時間的・コスト的・人的ロスってのも気になるところです。
「政治的判断」のスピード感や「深み」「グローバルを踏まえた広さ」が必要なんではないか…ってのも、今の日本の問題点に重なるのかもしれませんね。


体系的な「論」を知りたいなら本書だけでは物足りないでしょう。
でも「今」を切り取り、評価するという視点からは、十分に価値があるし、直近の時事ネタをベースにしているので、前書より読み応えがありますよ。