・ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅
著者:レイチェル・ジョイス 訳:亀井よし子
出版:講談社
これは良い小説です。
面白く読めましたし、考えさせられもしました。
ま、「作者の思う壷」な訳ですが、それが小説を読む醍醐味でもありますしw。
物語の形式は「ロード・ノベル」。
昔の知り合いががんで余命幾ばくもないことを知り、「歩いて」お見舞いに行く・・・というのがアウトラインです。
途中、色々な出来事があり、色々な人々と出会うことで、主人公もその周りの人々も自己変革を遂げて行く・・・って言う「ロード・ノベル」のパターンをちゃんと踏襲しています。
それでいて「ありきたり」ってならないところが、作者の腕の見せ所です。
一方で本作ならではの部分も勿論あります。
主人公は昔の同僚に会いに行く訳ですが、彼女との関係が作品のメインではありません。
主人公と、今は関係が冷えきっている妻、分かり合えない息子。
この三人の関係が本作の中核にはあります。
この「巡礼」を通して、この「家族」がどのような関係性を取り戻すのか。
本作のメインテーマはこれでしょう。
物凄く「苦い」部分があります。
取り返しのつかないことがあり、そこにある「悔恨」は、どんなことがあってもぬぐい去ることは出来ません。
それでも今まで生きてきた中には「大切」なものもあり、「幸せ」の瞬間も数多くある。
それらを紡ぎながら、相手を思いやり、一緒に前に進んで行くことは出来るはずだ。
そんな風に僕は本書を読み終えたんですが、どうでしょうね?
キレイゴトと言えば、キレイゴト。
でもそこには幾ばくかの「生きて行く知恵」があるようにも思います。
作者は何歳くらいかなぁ。
子供も4人いて、(小説はこれがデビュー作ですが)テレビの脚本で活躍してた人でもあるようなので、若くはないでしょう。
でもハロルド(65歳)ほどの歳の人でもないと思います。
もしかしたら僕と同世代、あるいはもう少し下かな?
本書の持つ少し苦い、それでいて「救い」もある「センチメンタリズム」っていうのは、それくらいの年代に相応しいんじゃないでしょうか?
少なくとも僕には「良い塩梅」の作品でありましたw。
「本屋大賞」の「翻訳小説部門2位」になってるようですから、あながち独りよがりの評価ではないと思いますがね。