鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「小夜しぐれ」

・小夜しぐれ みをつくし料理帖
著者:高田郁
出版:角川春樹事務所



震災のインパクトは、色々なところに影響していて、読書にもそれは及んでいる。
前に読んだ「リーダーシップでいちばん大切なこと」なんか、そういう面が強く出てきた一冊だったけど、以前から大好きなこのシリーズの最新作にもそんなトコがあった。


このシリーズの主人公は数々の苦難を乗り越えて、一歩一歩前進してるんだけど、その大本のところにあるのが、大阪での大水害の経験なんだよね。
そこで両親を失った主人公は、縁あって「料理」の途に進むんだけど、同じく水害によって運命を狂わされた幼なじみとの関係がシリーズの一つの柱になっている。


勿論、この設定自体は今回の震災とは何の関係もないし(第一作目が書かれたのは数年前だから当たり前)、5作目となる本作が執筆されたのも震災前だろうから、本作に震災の影響があるはずもない。
それでも、
大水害によって身一つになり、どん底から幸福を求めて努力を重ねる少女の物語
・・・ってなるとね。
そこに何かを見ずにいられないってのは、仕方ないことだろう。


シリーズの中では、本書はやや主人公達の「恋愛模様」に重きを置いた位置づけになっている。
ヒロインの想い人の視点から描かれた短編が収められていることが象徴的だろう。

だけど、こう言っちゃ何だけど、そこら辺はまあ「上手いことやってぇな」ってのが、僕の正直な感想だねw。
あんまりそこら辺の人間関係でゴチャゴチャして欲しくないなぁっていうか・・・。


それよりも苦難から立ち上がってきた彼女達の確かな前進を見せて欲しいと思う。
自らのたゆまぬ努力と、周りの人々との縁との中から、自分自身で確かにつかむ「幸せ」を描ききって欲しいというのが、僕のこのシリーズへの願いだ。



そういう強さが人間の中にはあり、「小説」はそれを描き出し、人々に示すことのできる媒体なのだと、僕は信じたいのだ。


楽しみなシリーズだけど、殊に今回は次の作品が楽しみです。