・昭和の怪物 七つの謎
著者:保阪正康
出版:講談社現代新書(Kindle版)
「8月15日」が近づくと毎年昭和史に関する本が出版され、その内の何冊かは目を通します。
保阪さんの作品は、何冊もその流れで読んでますね。
今年はこれ。
一冊を通して論じると言うよりは「断片」的なエピソードを集めたものかなぁ…と気楽に読み始めたんですが、これがナカナカ骨のある…。
むしろご自身の年齢も考え、
「残すべきことは、できる限り書き残しておかないと」
って気持ちがあるのかもしれません。
「七つの謎」は以下。
・東條英機は何に脅えていたのか
・石原莞爾は東條暗殺計画を知っていたのか
・石原莞爾の「世界最終戦論」とは何だったのか
・犬養毅は襲撃の影を見抜いていたのか
・渡辺和子は死ぬまで誰を赦さなかったのか
・瀬島龍三は史実をどう改竄したのか
・吉田茂はなぜ護憲にこだわったのか
一言で言えば、
「昭和初期の日本を誤まらせたのは何か」
昭和軍人、軍人官僚が国を滅ぼす寸前まで行った背景を、問いの中に探り続けている感じですね。(その最右翼が「東條英機」なんですが)
そしてその視線には常に「今」が重ねられています。
作者の安倍首相への批判的スタンスは有名ですが、それは東條英機を研究してきた者としての危機感と言えるかもしれません。
<大日本帝国の軍人は文学書を読まないだけでなく、一般の政治書、良識的な啓蒙書も読まない。すべて実学の中で学ぶのと、「軍人勅諭」が示している精神的空間の中の充足感を身につけるだけ。いわば人間形成が偏頗なのである。こういうタイプの政治家、軍人は三つの共通点を持つ。「精神論が好き」「妥協は敗北」「事実誤認は当たり前」。東條は陸軍内部の指導者に育っていくわけだが、この三つの性格をそのまま実行に移していく(その点では安倍晋三首相と似ているともいえるが)>
僕自身は政治家や実務家が「本を読まないからダメ」とは思いません。
ただ「知性」や「知識」「知恵」に対する敬意は持っていなければならないし、その敬意をベースにして、知識や経験を持った人物を活用すべき(そしてその責任は自らが負う)と考えています。
安倍さんにはチョット危うさをそう言う意味で感じもします。
一次史料さえも改竄してしまう日本官僚の傲慢さなんかも、瀬島龍三を通じて作者は喝破します。
<二〇一七年から二〇一八年にかけて虚言を弄した財務省の官僚を始め幾人かは、いずれ歴史を記述する書の中で将来にわたってその汚名が記録されるのではないかと思う。>
然るべし。
昭和史に興味がある方には興味深い一冊だと思います。
(石原莞爾の評伝は書いてほしいな〜)