鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

「やってみなはれ」は甘くない:読書録「琥珀の夢」

琥珀の夢 小説 鳥井信治郎<上・下>
著者:伊集院静
出版:集英社

琥珀の夢 上 小説 鳥井信治郎

琥珀の夢 上 小説 鳥井信治郎

琥珀の夢 下 小説 鳥井信治郎

琥珀の夢 下 小説 鳥井信治郎


もともとは佐治敬三開高健の伝記(「最強のふたり」)を読もうと思ってたんですよ。
で、
「そう言えば、<その前>で評判になってる本が…」
と思い出したのがコレ。日経の連載が評判、と言うより、小泉純一郎がハマって評判…ってトコでしょうか。


サントリー創始者の「鳥井信治郎」の生涯を追った作品…って、「当たり前」なんですが、作者が「伊集院静」なんでw、もっと大胆に焦点を当てるかと思ってたので、ちょっと肩透かし。
まあ確かに、「赤玉を作るまで」、つまり鳥井信治郎が自分の手で試行錯誤する時代が一番ボリュームがあるのは確かなんですけどね。
逆に言えば、赤玉やウイスキーが、手工業的な製造から、全国流通に耐えうる大量生産になる過程については「サラッと」って感じ。
まあ、作者からすれば「個人」が苦闘する姿は描きやすかったけど、「組織」として成長する姿はピンとこなかったんでしょうね。「経営者」たる「鳥井信治郎」のポイントはこっちにあるとは思うんですが…。


でもそれなら戦後の成長期のことなんか触れずに、ウイスキーが出来た辺りで止めておいてもよかったと思うんですよ。
その分、母親とか、(小説での)師匠である小西儀助とかとの「別れ」を、「小説っぽく」描いた方がよかったのではないか、と。
前半の取り上げ方に比して、後半での彼らのスルーは、なんとなく「?」な感じでした。
変に「伝記」にしようと思って生涯を追ったのかもしれませんが、そんなことする必要なかったんじゃないかなぁ。まあ「ビール」ってのはあったのかもしれませんが。


面白かったかどうかと言われれば、「面白かった」です。
なんとなく偉人の「度量」から出た言葉のように捉えてた「やってみなはれ」がそんな甘いもんじゃなく、新しいことに挑戦する、ベストを尽くす、そう言った姿勢を見せない周りに対するプレッシャーだったのだと言うのが、僕としては興味深かったです。
そんな甘っちろいことで、一代にしてここまで大きく離れませんわな、確かに。
ただ「伊集院静」の「小説」としては、もっと自由でもよかったんじゃないかなぁ…
だけですw。


さて、コレを受けて「2代目」はどう言う戦いをするのか。
本書ではスルーされていた「養子問題」も含め、「続き」が楽しみではあります。