鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

僕は犬にそういう能力があるとは信じないけど…:読書録「少年と犬」

・少年と犬

著者:馳星周 ナレーター:桑原敬一

出版:文藝春秋(audible版)

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馳星周の直木賞受賞作。

馳さんの作品は、初期のハードボイルドもののインパクトが凄くて、しばらく追いかけてたんですが、そのハードさがちょっとシンドくなってw、足が遠のいておりました。

馳さんの作風もイロイロ広がってる…って印象は持ってたんですが、直木賞受賞作が「動物もの」ってのは、ちょっと驚きました。

まあ、この流れには稲見一良さんという先達もいらっしゃいますが。

 


本作は6つの短編による連作短編集。

東日本大震災で飼い主を亡くした子犬が、5年の月日をかけて、釜石で心を交わした少年を追いかけ、熊本まで旅する間に出会った人々のエピソードが語られています。

 


男と犬(仙台):生活の苦しさから強盗のドライバーを務める男

泥棒と犬(新潟):1話で登場する外国籍の強盗

夫婦と犬(富山):すれ違いを感じつつある夫婦

娼婦と犬(滋賀):どうしようもないヒモを殺害した娼婦

老人と犬(島根):妻と猟犬を亡くし、病に襲われた老猟師

 


彼らの前に犬は姿を現し、幸せな日々を感じながら、無情な別れがそれぞれに訪れる。

そして

 


少年と犬(熊本)

 


釜石で出会った少年と犬は再会し、運命的な<時間>を過ごし、しかしその運命は「熊本震災」という災害をも呼び起こす。

無情な別れは、今度は…。

 

 

 

基本的に僕は「犬」が人間に対して持つ、人間的な「愛着」というものはあまり信じていません。

時に語られる「超的能力」につても、「眉唾」と思ってる人間です。

所詮、「犬」は「犬」。

それでも「何か」を飼い主は「犬」に感じる時がある。

それは飼い主自身の心の中で起きていることでしかないはずなんだけど、もしかしたら…。

 


…というわけで、泣かされました。

ハードボイルドの書き手としての技量が発揮される「泥棒と犬」「老人と犬」なんかは予想通りの素晴らしい出来なんですが、微妙な夫婦の関係性と描く「夫婦と犬」とか、震災後のやるせない家族の在り様を語る「男と犬」とか、どの短編も読ませる、読ませる(聴いたんですがw)。

もともとうまい作家さんと思ってたんですが、腕上げてますなぁ、こりゃ。

 


作者自身、飼い犬との別れなんかもあって、思うところはイロイロあるようです。

そこら辺は別の作品(「走ろうぜ、マージ」)にまとめられてるようですが。

 

 

 

まあ、「犬」は「犬」です。

基本、ソファの上でゴロゴロしてて、散歩の時には飼い主の思惑なんか放っておいて、あっちこっちへ引っ張り回す「こふく」(マルチーズ)がこんな能力を発揮するとはとても思えないw。

それでもね。

ふとした時に僕を見上げる瞳の中には、もしかしたら…。

「犬」は「犬」なんだけどね。

 


#読書感想文

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