鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

人でなしの物語:読書録「忍びの国」

忍びの国
著者:和田竜
出版:新潮文庫

忍びの国 (新潮文庫)

忍びの国 (新潮文庫)


大野智主演の映画の方はチョット食指が動かなかったんですが、原作の方は前々から気にはなっていたので、この機会に。
…一気に読み上げちゃう面白さ、でした。(さすが「のぼうの城」「村上海賊の娘」の作者だけのことはあります)


信長による「伊賀征伐」(天正伊賀の乱)を背景にした物語。
伊賀を「殲滅」したこの乱は信長の「残虐さ」を証明するエピソードとして取り上げられます(信長自身は出陣してないんですがね)。
こういう場合、滅ぼされた側(伊賀)に肩入れして、「悲劇」として描くケースが多いと思うんですが、本書はチョット違います。
「人でなし」
これは信長に向けてではなく、「伊賀者」に向けられるレッテルなんですよね。
一度は織田軍を退けた伊賀者も(本書のメインストーリーはここ)、第二次征伐で完膚なきまでやられてしまうのですが、ある意味それ自体が「自業自得」という風にも、本書では描かれています。
確かに、本書で描かれる「伊賀者」は、謀略を巡らし、父が子を犠牲にし、陥れ、銭金に汚く、誇りも矜持も全く持ち合わせていない、どーしょーもない人々ですからね〜。


<「虎狼の族の血はいずれ天下を覆い尽くすこととなるだろう。我らが子そして孫、さらにその孫のどこかで、その血は忍び入ってくるに違いない」
自らの欲望のみに生き、他人の感情など歯牙にも掛けぬ人でなしの血は、いずれ、この天下の隅々にまで浸透する。大膳はそう心の中でつぶやいた。>


そしてその「伊賀者」に、作者は「現代の日本人」を重ねてるんでしょう。
「余計なお世話」
とは言い切れないかなぁ。
もっとも、このセリフを呟いた日置大膳がどこまで高潔と言えるかどうかには、意見が分かれるところもあるでしょうがね。


映画の方はどうだったんでしょう。
脚本を原作者自身が書いているから、ストーリーが無茶苦茶に…ってことはないでしょう。案外大野智の「無門」も悪くないかも(ちょっとフックラしてるけど)。
レンタルになったら、観てもいいかなぁ…。