鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「失敗の本質 リーダーシップ篇」

・失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇
著者:野中郁次郎(編著)
出版:ダイヤモンド社



「失敗の本質」(84年発表)は最早「古典」となっていて、同書が提示した日本軍の問題点「成功への過剰適用」は「常識化」されてしまっていて、今や同書発表前にどのように考えられていたか判然としないくらいだw。
その後、このチームは「成功の条件」を探求して、「戦略の本質」を発表。
そこで卓越したリーダーシップの条件として「フロネシス・賢慮ないし実践知」を打ち出す。
本書はその「フロシネス」という視点をもって、日本軍における「リーダーシップ」を考察した作品・・・って感じかな。
何か、グルッと一周してきたようなw。



本書の出版に際しては、多かれ少なかれ「3.11」における日本政府および東電という「組織」の機能不全、リーダーシップの欠如が影響しているように思う(野中氏は福島原発事故独立検証委員会の委員でもあったらしい)。
また本書の「まえがき」では、



<おそらく日本において唯一、自己否定の能力を持ちえたのが企業組織であろう。>(P.1)



とあるが、そうした面があるのは確かだとしても、昨今の電機業界の不振、失われた20年における日本経済の失速感等においては、「企業における成功体験の罠」こそが問題視されている。
すなわち編者達が指摘した「日本軍の問題」は、戦後/現代においても克服されぬままである、と言っていいわけだ。
(本書に先立ち、「失敗の本質」の入門書のようなモノが発表され、好評であるというのも、翻ればその証拠だろう)



本書のカバーする範囲は、「リーダーシップ」を核としながらも、結構幅広くて(大和特攻における「空気」の醸成が、如何なる構造から生まれたか・・・なんてのもある)、それぞれが興味深く読めながらも、若干散漫な印象もないではない。
基本には共通の理解があるんだろうけど、それぞれの学者の研究を背景にしてるんだから、これはこれで仕方ないかな?
むしろそこに作品としての一体感を求めるよりも、専門家の研究成果としてそれぞれについて考察するのが本書への正しい接し方なんだろうな。
そうした中でも、本書の中心であり、「読み物」としても楽しめるのが、個々の具体例を挙げながらの日本軍リーダーの分析。
これは実に面白かった。
章を立てて論じられる「石原莞爾」「辻正信」「山口多聞」のほか、まとまって論じられてはいないものの、間違いなく典型として下敷きとされている「東条英機」と「山本五十六」。
一読の価値はあると思うね。



「戦略の本質」および本書で論じられる「フロシネス」という考え方は、論としてはつかみ所のない部分があり、「法則」としては整理しづらい部分がある。
しかし現実論としては、「現場力」と「フィードバック」によって支えられた「リーダーシップ」というのは極めてリアリティのある主張であり、説得力がある。
まあそもそも「今、直面する現実」というものが論理的/合理的には把握しづらいものであり(事後的には分析できるとしてもね)、そこにおける「判断」(リーダーシップの本質はここにあるだろう)は、こうした形でしかあり得ない・・・ってことなんだろうな。

この歳になって「教養(リベラル・アーツ)が重要」って言われても困るけどねぇw。



まあ作品としてのインパクトは「失敗の本質」には敵わない。
でも「バブル」後の日本経済、現在の政治状況を考えると、このタイミングで読むべき作品・・・と言ってもいいだろう。
しかし考えてみたら、「失敗の本質」ってバブル前の作品なんだね。
ある意味、「予言的」な作品でもあった訳だ。

うーん、もう一回読んでみるかな?