・官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪
著者:牧野洋
出版:講談社
最近、何かと残念な話もある上杉隆氏だが、「記者クラブ」の問題点を広く世間に訴えたと言う点は評価してもイイと思っている。
その延長線上で「自由報道協会」を立ち上げたのも、(その運営上の課題も出て来てはいるが)「行動」という点では必要なことだったんじゃないかなぁ。
ただどちらかというとパフォーマンス的な動きをしがちな上杉氏は、論拠をあげての検証は今ひとつって雰囲気がしないでもない。(今のガタガタはそう言うトコに根ざしてるのかもw)。
そのフォローしきれないしっかりとした検証を本書はしてくれている印象。
「サラリーマン記者としては何も出来なかったくせに」って見方もあるかもしれないけど、だからこそ書けるってコトもあるとおもうよ。
本書が日本の新聞ジャーナリズムの問題点として指摘しているのは、(それぞれが影響しあっているんだけど)大きく言えば以下の点。
・「記者クラブ」の存在
・「匿名」の跋扈
・「調査報道」の軽視(ストレートニュースの偏重)
これらの点についてアメリカのジャーナリズムと比較しつつ問題点を指摘するスタイルとなっている。
一方的に「アメリカはイイよねぇ」って論調じゃなく、ちゃんとその問題点も指摘してるんだけど、やっぱり今の日本メディアの課題の方が大きいかなぁ。
「記者クラブ」や「調査報道」のことは従来から認識してたけど、「検証が出来ない」ことによる「匿名」の重大な問題点ってのは、改めて認識させられた気がする。
これはネットにおける「匿名性」の課題とは、重なるところもあるけど、もっとジャーナリズムにとって根源的なモノをはらんでるんだよね。
こここそが本書の読みどころかも、と個人的には考えている。
そう言う視点で凄く読み応えのある作品だったんだけど、「おや?」と思ったことも。
本書で作者は「リクルート事件」と、立花隆氏の「田中金脈報道」を日本ジャーナリズムの「調査報道」の成果としてあげてるんだけど、一方でこの二つって、政治絡みの「冤罪事件」としての疑念が強まっている事件でもあるよね。
そこには「調査報道」を利用する権力の影があったのかも・・・なんて考えると、日本における「官報複合体」の影はより深く感じられるようになる・・・ってのは深読みしすぎ?w
震災以降、どの様な形であれ、メディアをめぐる環境は大きく変わって来ている。
それがどのような流れになるのかは予想がつかないが、参考すべき指標として本書はスゴく役に立つと思うよ。
いやぁ、これ読んでから、新聞記事の「匿名」や「主語」が気になって仕方なくなっちゃったよw。