鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「生物学的文明論」

・生物学的文明論
著者:本川達雄
出版:新潮新書


「ゾウの時間 ネズミの時間」で有名な作者が、生物学的視点から科学的思想に基づく現代社会に対する批判的見解を論じた一冊。
「サンゴ」や「ナマコ」という、人間とは全く違う「時間」を生きる生物の「あり方」を説明しながら、振返って科学的分析に立脚する直線的時間との比較を行い、我々が自明のことと思ってる「時間」とは違う「生物的時間」の可能性を語っている。

まあ正直言って、「提言」のところは主に「団塊の世代」になされているだけに、僕には何とも言えない部分もあったんだけど、「生物学」の立場からみた「時間」や「形状」のあり方等、作者の研究に基づく論考はナカナカ面白かったよ。
なんで、逆に言えば無理から文明論とくっつけなくても良かったんじゃないかなー、ともw。

ま、それじゃ作者の言いたいことにならなかったんだろうけどね。



確か「ゾウの時間 ネズミの時間」でも出てきてたと思うけど、他の動物と同じように脈拍から人類の「寿命」を計算すると、「41歳」になるらしい。
現在の日本人の平均寿命は、男性79歳、女性86歳。
約40年、寿命が延びているし、これはごく最近コトなんだよね(江戸時代の寿命は40歳代、昭和22年でも50歳らしい)

これは幼児の死亡率の低下と、医療の発達による寿命の延長によるものなんだろうけど、言ってみれば、これが「現代文明」がもたらした「プラスの時間」。
そして作者も指摘しているように、その「プラス」を生み出すために、人類は膨大なエネルギーを費消するようになったとも言える。

まあ僕らは「ナマコ」や「サンゴ」のような「省エネ」スタイルは(生物的にも)過ごすことはできない。
それでもこういう形で、明らかに逸脱した「プラスの時間」を享受してるってコトは認識しておく必要があるんじゃないかね。



勿論、だからって「平均寿命40歳になるような文明に退化していこう」なんてこと言ってるわけじゃない。
そんなことは無理だろう。

ただ「プラスの時間」を生み出すためのエネルギーをどのようにして生み出していくか?

ここは議論されるべきなんじゃないか、と。
「福島」が問いかけているのは、そういうことでもあるんだと思う。

(ここら辺、全くアプローチが違うんだけど「エネルギー論争の真実」(特に前半)に重なるところがあるんだよなぁ。これが「時代性」なんかね?)



ストレートなエネルギー論や社会論もいいんだけど、こういう一風変わったアプローチの本を読むというのも、それはそれで楽しいし、役にも立つ。

ちょっと面白い一冊だったよ。