鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「文明崩壊」

・文明崩壊<上・下>
著者:ジャレド・ダイアモンド
出版:草思社(Kindle版)



作者の作品を読むのは「銃・病原菌・鉄」に続いて2作目。
どうも文庫化のタイミングで電子書籍化してるみたいですね。
欧米の作品は分厚いのが多いから、ハードカバーの時点で電子書籍化してくれると助かるんだけどなぁ(あと、電子書籍で「上・下」にする理由もあまりないかと)。
まあでも、あまりメジャーじゃない出版社なんで(失礼)、「電子書籍化は無理かな?」と思ってたんで、本作の電子書籍化は驚きであり、嬉しかったですね。



前作で「文明の隆盛」について数々の事例から分析を加え、
<西洋文明を今日の隆盛へと導いてきた力の源が、人種的(生物学的)な優越性などではなく、知性や気候を含めた環境の初期条件にあると喝破した>(訳者あとがき)
作者は、本作では(題名通り)「文明崩壊」について、同じように論じている。
本作の面白さは、前作同様、過去の事例(古典期間や、イースター島、グリーンランド、江戸時代の日本等々)を取り上げて、分析し論じるとともに、現代の事例(モンタナ州、ルワンダ、中国、オーストラリア等々)も多く取り上げ、過去の事例との比較・分析を加えていく中で、現代文明が内包している「危機」に対して警告を発している点だろう。
前作でも「人種の優位性」等への厳しい批判が打ち出されていたが、本作での批判的な視野はより広く、現在社会・権力に対する批判の度合いを強めていると思う。
「今、対応することで回避しうる」として、作者は決して「悲観的」ではないんだけど、指摘されている「課題」の大きさはかなり重いのも事実。
しかし無視できない深刻さがここには記されているというのが正直な感想だ。
(「江戸時代の日本」は持続可能な林業の基盤を築いたことで賞賛されてるんだけど、「現代日本」は<自国の森林資源を保全する一方で、熱帯雨林の乱伐に精を出す国、すなわち森林破壊の輸出国として名指しされている。>(訳者あとがき)
耳の痛い話)



作者自身は「環境決定論者ではない」として、「環境だけが文明崩壊を決定付けるわけではなく、他にも様々な要因がある」(従って同じような課題を抱えながらも「崩壊」した文明と、永らえた文明がある)と論じてるんだけど、その重要なポイントはやはり「環境破壊」だろう。
この点を認識し、「対処しえたか否か」と言う点には「環境」以外の要因があるんだけど、そもそもの根幹には「環境破壊」がある。
勿論、そこに至る過程にも「環境」以外の要因があるから、確かに「環境決定論者」ではないんだけどね。



作者自身、自分の子供が生まれるまでは「地球温暖化」や「熱帯雨林の消失」なんかは他人事のように思っていた・・・と語っている。
それが子供ができて、いきなり数十年後の世界が「架空の年」でなくなった、と。
僕も全く同じ感覚を覚えた。
多分、十年前に本作を読んでたら、
「なるほどねぇ」
とは思ったろうけど(それだけのインパクトのある労作ではある)、わが事としては感じることはできなかったろう。
でも子供を持った今読むと、この内容の重要性と言うのがヒシヒシと感じられる。
ここで描かれていることは、子供たちにとっての「今」となりうる世界なのだ。



全てに明確な「答え」があるわけではない。
しかし「正解」を待ってたら、「手遅れ」となる可能性も高いのだ。
それを回避するためには「今」スタートしなければならない。
そのことを強く認識させてくれる作品です。

難しいけどね。