鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「インサイド・アップル」

・インサイド・アップル
著者:アダム・ラシンスキー
出版:早川書房(電子書籍)



極端な「秘密主義」で知られる「アップル」の組織や経営判断の決定の仕組みについて、元アップル社員へのインタビューを集積して、「推測」した作品。
タイミング的にジョブズの死の前後に渡って調査され、死後に発表されただけに、
「果たしてジョブズの死後、アップルはどうなるのか?」
と言うことがメインテーマとなる作品になっている。
「アップル」の歴史をなぞるような側面もあって、僕はすごく面白く読んだね。
比較的「公平」だったジョブズの公認評伝と重ねて読むと、なお面白いと思うよ。



結局良くも悪くも、アップルと言う会社は「スティーブ・ジョブズ」という人間が持った「価値観」を体現する会社になってたと言うことだろう。
だからジョブズがいなくなっても、その「価値観」が共有されていれば、アップルと言う組織は「強み」を維持することができるんじゃないかと思う。
ジョブズは後継者のクックに、
「ジョブズならどうするかと考えるな。正しいことをするだけでいい」
と別れに臨んでアドバイスしたとか。
「起業家」であることがアップルの精神の中核にあるとすれば、これはまさに正しい。
「ジョブズは良く分かってた」
ってことかなぁ。



アップルの商品の素晴らしさは徹底的な「消費者体験の重視」にあったと思う。
この「消費者体験」は、
「個々の商品の細部にこだわる作り込み」
という部分と、
「未だ現実化していない『消費者体験』の創造」
が支えている。
個人的にはこういう「消費者体験」を重視する体制の維持は今のアップルには可能なんじゃないかと(希望も込めて)推測している。
その「消費者体験」を決定する能力も上層部にはあるんじゃないかな。



ただねぇ。
ジョブズが生きていた時、この「消費者」はジョブズ自身だった。
その完璧主義ぶり、ビジョナリーぶりには驚嘆するしかないんだけど、実はこの「消費者」は結構思い込みも激しくてw、現実には判断を誤るケースもチラホラ・・・だったんじゃないかねw?
決していつも「正解」が我々に提示されてたわけではない。
でもそれが「アップル」。
その「歪み」も含めて、と言うか「歪み」があればこそ、アップルの製品は熱烈に愛されたんじゃないかな、と。



残されたアップルの上層部は、存外「正しい」消費者を想定してくれるんじゃないかと思う。
ただそれが現実の消費者の心を掴み続けることができるかどうか・・・懸念はここにある。
僕らは「正しいこと」よりも、「ユニークなこと」が好きなんだよね、実は。



作者は本書の最後で今後、アップルの組織や経営方針が変わっていかざるを得ないことを指摘している。
先日、アップルは配当を再開することを表明したが、これはその第一歩かもしれない。
僕自身は、それでも当分、アップルの輝きは保たれるんじゃないかとは思っている。
でも「ユニーク」な存在であり続けることができるのか、どうか・・・。
これは何とも言えないねぇ。



ま、当分はそれを知りたいがために、アップルの新商品を追いかけちゃうんだろうけどね。
それもジョブズの目論見通り・・・?w