鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「日本復興計画」

・日本復興計画
著者:大前研一
出版:文藝春秋


震災後、「3/13」と「3/19」にYouTubeにアップロードされた番組に、「日本復興計画」の一章を書き下ろして書籍にした作品。
書き下ろし部分も日経BPに発表された内容と重なる部分は多いんだけどね。
ただ原発の状況、その後の処理の見通しについては、このYouTubeは非常に参考になるし、「復興計画」も考えさせられるところが多い。(政府の計画もこれを参考にしている部分があるように見受けられるし)
印税部分は震災復興に使われるらしいけど、そうじゃなくても一読に値する一冊だと思うよ。



僕自身はアップロードされてから早い段階でこの番組をつまみ見したんだけど(全体では一時間を超える内容だったので、ジックリ見る気分にはなれなかったw)、その時点から大前氏の見通しの論理的なことには感心させられた。
震災後の原発の状況把握における僕の基本認識には、この大前氏の解説が一貫してあった。



今回改めて読んで、一ヶ月以上経った時点から、その内容を振返ってみると、その見通しの確かさに驚かされる(まあ、だからこそ、そのまま出版されたんだろうが)。
確かに大前氏は原子力の専門家だったらしいが、勿論「現役」ではない。
その作者がこれだけの見通しを震災直後から立てられたと言うことは、(勿論作者の能力の高さを賞賛すべきではあるのだが)それ以上に、「おそらく、専門家であれば動揺の見通しは立てていたはず」と言うことに薄ら寒さを感じる。
震災後の政府・東電発表やマスメディアの解説に、ここまでのものはなかった。
しかしその裏側では、こういう見通しを進言していた人は間違いなくいただろう。
それが表には出てこなかったと言う現実。
「隠蔽体質」とは何かが、ここには透けて見えるように思う。



原発処理に関して作者が言っていることは、煎じ詰めれば一点。
「処理には時間が掛かる」
そして今回の原発事故によって、新しい原発の建設はできなくなり、日本はエネルギー政策を見直さなければならなくなっている。

ココで挙げられる大前氏の対策が現実的なものか否かは議論のあるところだろうが(サマータイム導入、週5日間選択性創業、夏の甲子園中止)、「計画停電」を「愚」とし、具体的な対応策を提示している点は(早い段階での発表でもアリ)評価できるんじゃないかね。

いずれにせよ、こういうベース電力が低下した中で生活し、経済活動を行わなければならないことは、日本にとって現実化しつつあると言える。



「復興計画」については、「復興税」として一時的な消費税アップを掲げている点は現在の政府方針に取り上げられており、現在議論の真っ最中。

僕自身にはこの段階での消費税アップには否定的なんだけど、「国債」に関する懸念は理解できる。

消費税アップの問題点の一つは「本当に一時的なのか」という点にあるんだけど(なんせ「暫定税率」と名づけられて何十年も続いた税を持っている国だからねw)、少なからず復興に資金が必要とされることは間違いなく、ここは議論を重ねていくしかないだろう。



「復興」に関してはむしろ作者の掲げる「道州制」と「日本人のメンタリティ改革」の方が中長期的には影響の大きい施策だろう。

「道州制」については、既にそういう動きが地方に出始めており、今回の震災がそれを加速させるかどうかがポイントだと思う。(大阪と名古屋を考えると、一進一退って感じかな?)

「メンタリティ改革」の方は、「確かに必要」とは思うものの、「さてその方向性は?」とも考えさせられる。



<私が記者たちに、「いや、景気回復はしないよ。下手をするとスペイン、ポルトガルみたいに四百年は停滞したままで行ってしまうよ」と言うと、彼らは絶句してしまう。でも悪い話ばかりではない、と私はつけくわえる。唯一のグッドニュースは、日本の四百年の長い衰退のうち、もう早くも二十年が過ぎたのだから>(P.108)



何とも暗い見通しw。

その見通しの上に立つ「復興策」は、一言で言えば「個人としての自立」だろう。



<あなた自身を復興する、あなた自身があなた自身を救ってサバイブする。この世の中、どんな乱世になっても生き残ってみせる、というメンタリティ、極端に言えば、世界のどこに出かけて行っても稼ぐぞ、というメンタリティが持てるかどうか、そこがポイントなのだ。

(中略)

自分自身だけが頼みの綱と覚悟を決める。そうしなければ、この日本も元気になりえず、復興もあり得ない。>(P.126)



思わず面を伏せちゃうなぁw。



あなたは如何ですか?